「俺はな、何が大事なのか、もうわかったんだ」『それはどういう……?』 言葉だけを取るなら意味はわかる。 取捨選択の問題だろう。 自分が行動する上で何を優先するのか、それを決めてしまえば迷わずに進む事が出来る。 幸せになってほしい、とオレがトラストに思って行動するのは、この優先順位が高いからだ。 トラストは神妙な面立ちで深呼吸をしてから言った。「フィーリア、俺は君が好きだ」『はい、わたしも好きですよ』 なんだそんな事か。 トラストがオレに好意を持っているのは知っているので、自然に返した。 しかし、何やら浮かない顔をするトラスト。「フィーリア、俺は君が好きだ」『わ、わたしも好きですよ』 同じ事を言われて、ドモりながらこちらも同じ事を返す。 何故二回言ったのかはわからない。 しかし、それでもトラストは浮かない表情のままだ。「フィーリア、俺は君の事が好きなんだ」『……』 今度は返事をする事が出来なかった。 自分でも理由はわからない。 ……いや、考えない様にしていたと言った方が正しいか。 オレは元ではあるが、男だ。 トラストの事は好きだし、異性としても好きだ。 惚れ薬を飲んだ時に感じた心が熱くなる感覚は、今でも続いている。 けれど、どうしても踏ん切りが付かない気持ちも少なからず残っている。 身体を重ねる様なただならない関係だし、求められれば幾らでも応えるはずだ。 それでも自分の大事な部分を隠している。 けれど、それはしょうがない事だ。 オレが元々男なんてトラストに言う意味も無いし、言うつもりもない。 しかし、オレ自身の心の中で決めかねている部分があるのは事実だ。 ……それを見透かされている。「何よりもフィーリアが大事だ」 ……元男なのにちょっと効いた。 グラッと来てしまった。 オレも少なからず女が侵食してきたのかもしれない。 いや、これからの事を考えるとそれが良いんだけどさ。「だからフィーリアを手に入れる為に手段を選ばない事にしたんだ」 つまりトラストはオレが本当の意味でトラストに惚れている訳ではないと、気付いてしまった訳だ。 もちろん好きではある。 男の中では一番好きだ。 異性としても好意を持っている。 けれど、オレは元男だ。 どうしても男の、同性だったからこそ感じる穢れが気になってしまう。 だから彼の全てを好きになる事は出来ない。 少なくとも、今は。『……』 だけど、言い訳はしたくなかった。 ……オレは男だ。 そう叫び続けている自分がいる。 男として生まれた記憶がある以上、それは消せない。 消してしまえばオレはオレではなくなる。 それでも、トラストが求めると言うのなら……。 ふと……今日見た少女の顔が浮かんだ。 その子の顔は今のオレと全く同じ。 小さな口からはトラストを慰めようと思ったと、そう言っていた。