客観的に見ればその通りかもしれないけれど。 それでも、過去に死ぬほど苦しんで悩んできた当事者として反論させてもらう。「でも、俺はミーヤにあんな酷いことを言ったのは初めてだったんだよ。だから、ミーヤは傷ついて――」「あんなに酷いことを言ったのは初めてって。今まで喧嘩とかしなかったんですか?」「それは……多分ない。そういえば小さい頃も含めて、言い争いした記憶ってないかも……」 俺とミーヤはチャングズという村で育った。 同年代の人間がいない環境で二人きりで遊んできた。 仲良くと言ったらおこがましいかもしれないけど、それでも波風は立てないように心掛けていた。「だから、そんなに喧嘩が拗れちゃったんですよ。喧嘩慣れしていなかったから、仲直りの方法がわかんなくなっちゃったんです。逆に訊きますよ。十五年間も一緒にいて、一度も言い争いをしたことなかったって異常じゃないですか? 普通なら、数え切れないほど喧嘩をしているはずじゃないですか?」「それは……」 俺は反論することができなかった。 小さい頃から、ミーヤのことがずっと好きだった。 彼女を傷つけまいと衝突を避けて暮らしていた。 それでいいと思っていた。それが正しいと思っていた。 でも、それはきっと幼い俺達にとって異質な関わり方で。 だから、あの時に間違ってしまった。 そして、今も間違い続けているのだ。「そうか。最初から間違っていたのか。だから、昔みたいに振る舞おうとしても駄目だったんだ。失敗したんだ」 二人の決別なんてなかったことのように会話をした。『到達する者アライバーズ』時代の自分をひた隠しにし、情けなく弱いままの自分をどこか演じていた。 それじゃ駄目だと、謝罪をした。 全面的に自分が悪者なことを認めてしまった。 それでは今までの俺達と何も変わらない。 間違った関係のまま一緒にいても、それはお互いを傷つけるだけだ。「ありがとう、ロズリア。少し目が覚めた」「別に正しいことを言ったつもりはありませんよ。あまり真に受けないでください」 ロズリアは謙遜とも、責任逃れとも言えないような言葉で返した。 でも、今の俺には彼女の言葉がそう的外れなものには思えなかった。 自分の中に、俺とミーヤの確執を解決する一筋の光が見えてきた。「わかったよ。ヒントくらいに留めておくよ」「そうしてください。わたくしの余計なアドバイスでさらに仲が拗れたら、笑い話にもなりませんから」「そこは心配しなくていいよ。多分、今よりは拗れると思うから」 今、俺達二人の間に一番必要なのは、やり直して仲直りすることじゃない。 積み上げてきた全ての関係をぶち壊して、確執を全て清算することだ。 彼女を縛り上げているものゼロにして、前を向かせなくてはいけない。 それがたとえ、俺とミーヤの関係を完全に絶つことに繫がろうとも、別に構わなかった。「えっ⁉ さらに拗れちゃうんですか⁉」「それはもう。もしかしたら、絶交されちゃうかも」「いいんですか? それで?」 ロズリアは心配そうに尋ねてきた。「いいよ。本来、絶交されていたようなもんだったし。たまたま再会できて、こうして話す機会ができたんだ。せっかくのチャンス、一か八かの大博打に挑んだ方が冒険者っぽくない?」「ノートくんは冒険者をなんだと思ってるんですか……」 今度は呆れた視線を向けてきた。 何故か口元は笑っていた。「でも、やっぱりノートくんには冒険者がお似合いだと思いますよ。そういう性格してます」「そう? どちらかというと、冒険者に向いていない性格だと思っているんだけど」 繊細だし。すぐに落ち込むし。 自分で言うのも情けないが頼りない性格だ。「俺が思う冒険者らしい性格って、豪快って感じなんだけど……」「確かにノートくんは豪快って感じではないですけど――」 そう断って付け加えた。「結構めちゃくちゃなことをやる性格ですからね。自分では気づいていないかもしれませんけど」「そんなつもり全然ないんだけど……」 本当に自覚がなかった。 というか、指摘された今ですら、その評価には納得がいかない。 俺ほど、冒険者に向いていない性格もないだろう。「やっぱり。だから、今回も何をするつもりかはわかりませんが、あまり無茶はしないでくださいよ」「大丈夫。あって怪我止まりだと思うから」「そんな危ないことするつもりなんです⁉」 まあ、これからしようと思うことを考えれば? 身体に矢が一、二本刺さってもおかしくはないのか? なんて考えているところだ。