見上げると綺麗な快晴があった。 どうやら天気は予報以上に持ちこたえてくれたらしい。 朝の弘前駅には、帰路につく観光客も多く見られ、改札前のアナウンスが流れている。 と、おじいさんはにかりと頼もしい笑みを浮かべると封筒を差し出してきた。小首を傾げると「受け取れ」と手の上へ乗せてくる。「ん、旅費の足しにしてくれ。まだ会社では一人前じゃないんだろ」「あれ、僕は一人前のつもりなんですけど。……って、これ多くないですか?」 持ってみると思っていたより重みがあり、頭のなかでカシャカシャと値段がカウントされてゆくが……。「他の旅行先や、またこっちに来るとき使ってくれって意味さ。まだマリアーベルちゃんを岩木山にも連れて行ってないだろ」 ああ、そういえば。 歴史ある神社もあるし、冬場にはスキー場だってある。ただこの金額は、社会人でも重みを感じさせるな。 それからおじいさんは、ひょいとマリアーベルへ視線を向けた。「暇になったらまた来なさい。俺はいつでも待ってるからさ」「はい、おじいさまっ。必ず遊びに行きますっ!」 どしりと勢いよく抱きつく少女に、おじいさんは面食らう。 なにしろ素直でとても良い子だ。温かくも楽しいひと時を過ごし、そしてまた僕らにとって深い理解者でもある。 老人に頭を撫でられているうち、別れの気配にマリーはぽろぽろと涙をこぼしてしまった。「あー、こりゃあ駄目だな。俺まで……」 珍しく目頭を押さえるおじいさんも、きっとエルフの純粋さに打たれたのだろう。いくら頭が良くても世間に揉まれていても、根の部分はとても綺麗だと知っている。 さようならと手を振りあい、そして僕らは青森を後にした。 いくつかのトンネルを抜けたころ、新幹線の席にはお弁当が並べられた。名物の「ほたて弁当」それに「青森づくし弁当」は、いかにも美味しそうな色彩を見せている。 それに舌鼓を打ちつつも、ときおり少女は窓の外を眺める。 山深くも情緒ある青森を、きっと思い浮かべているだろう。「さて、どうだったかな青森旅行は」 カゴのなかにいる黒猫へ「ほたて」を差し入れしながら僕はそう尋ねる。単純に、初めての新幹線旅行の感想を聞きたかったのだ。 少女はくるりと振り返り、そして何故か僕の顔をじっと眺めた。一呼吸置き、とても綺麗な笑みを浮かべてマリーはこう答えてくれる。「んふ、最高」 言葉すくない感想にはたくさんの思い出が詰まっているようだ。 ならば後はもう美味しいものを食べ、そして残りの連休を楽しむべきだろう。 ゴウ!と新幹線がトンネルを抜けると、気持ちの良い青空が広がっていた。 やあ、とても楽しかったよ青森は。