「ちょ……いたの!?」 薔薇の繁みの中からやけに恰好付けて出てきたフレッドに、さらに度肝を抜かれる。姿を見せないからどこに行ったのかと思っていたら、まさかそんなところにいたとは。 いや、それはこの際どうでもいい。ミレーユは目をつりあげ、兄に体当たりした。 「あんたっ、人のことなにべらべらばらしてんのよ!」 「ああん、そんなに怒らないでよ。王太子命令だって脅されたんだよー」 「うそつかないで! 泣き真似もだめッ」 胸倉をつかんで大いに揺さぶってやったが、当の本人はまったく懲りた様子はない。それどころかにっこりとまぶしい笑みを向けてきた。 「リヒャルトと添い寝したんだ? 同じ寝台で二人で寝たんだー」 「うっ……」 あれはまったくやましい行為ではなかったと確信しているが、人からそんなふうに言われるとなんだか後ろめたい。自然と顔が熱くなってしまう。 「いいんじゃない? 婚前旅行なんだもん。それくらいのいちゃいちゃはしないとねー」 「だ、だから、そんなんじゃないってば……」 「照れることはない。さあ、リヒャルトとの愛の経緯を包み隠さずこれに書き出してみたまえ」 「って、分厚くない!?」 ジークが笑顔で差し出した紙の束に思わず目をむいて突っ込みを入れる。こんなふうに両方から攻められてはせっかくのお妃ぶりっこも早々に化けの皮がはがれるというものだ。 二人に囲まれてたじたじのミレーユを見守りながら、リディエンヌはくすくすと笑っている。 「ミレーユさま。殿下は、ミレーユさまが丁寧な物腰でいらっしゃるのがご不満なのですわ。以前のように親しげにしてほしくて、意地悪をおっしゃっているのです」 「へ……」 驚いてジークを見ると、彼はにやりと笑って手を握ってきた。 「その通りだよ、ミレーユ。これ以上私によそよそしくするつもりなら、その唇におしおきをしてやらねばならない。もちろん私の唇で」 「ひぃッ!!」 ミレーユは青ざめて手を振り払った。 久々に会ったというのにこの変わらなさはなんだろう。ある意味ほっとはするのだが。 (と、とにかく、王太子殿下として接するのは公式の場だけでいいってことね……)