「オッス!」「オッスオッス!」 トラックを降りて挨拶を交わすアキラと俺に、リリスがつぶやく。「その挨拶は、なんとかならぬのかぇ?」「ならない」 どうやら、そうとう珍妙に聞こえるらしい。そんなことを言われてもな。 どうせ、俺とアキラしか使わないし。 オッケーとかは、獣人たちも使っているのだが。 そのままトラックは進み、大工たちが組み立てた10棟のログハウス群へ到着した。 10棟のうち、2棟をマロウ商会サクラ支店として使い営業中。 4棟がメイドたちの仮宿舎。残りの4棟を大工たちが共同で使っている。 その他の作業員たちは、俺の用意した大テントに共同で寝泊まりだ。 このような作業になると、野宿も普通らしいので、雨風をしのげるだけでもありがたいらしい。 野宿していると、夜露で濡れてびっしょり、なんてこともあるようだからな。 建てられたログハウスは、住居に使えるように改造され、台所とトイレが設置されている。 下水は、一旦貯めて水石で浄化する、この世界のシステムに準拠したものだ。 浄化された下水は、地下に埋設された塩ビ管を通って、湖へ流される。 塩ビ管は俺が提供したものだが、これをこの世界の技術で工事しようとすると、また時間がかかってしまう。 街が大きくなれば、本格的な下水が必要になると思われるが、そのときには他の都市と同じものが設置されるだろう。 シャングリ・ラで、土管を検索してみたのだが、売っていなかった。 セメントは売っているので、コンクリ製の土管を製造できないこともないが――。 そのときは、なにか考えよう。 サトウキビを植えた所は住居より少々離れているのだが、人が多くなれば生活排水の増大も考えられるので、場所を移すことも考えないといけないだろう。 まぁ、水質を見ながらの判断だな。 ログハウスの建築が終わり、次に大工たちが取り掛かったのは、製材所の建築。 滝から流れる川の近くに製材所を作って、ここに作られる街の材料を賄おうというのだ。 周りの森には材木になる木が山ほどある。 ここに製材所を作ったほうが、住宅建築のための材料集めがはかどるってわけだ。 その製材所で生み出される材料を使って、やっと俺の屋敷の建築が始まる。 一緒に製材所の建築を見学しているユリウスに、この世界の事情を尋ねる。「ユリウス、なにもない所に領ができたときって、どうやって屋敷とか建ててるんだ?」「ここのように、本当になにもない所に、領ができるのは珍しいですね」 普通は、ある程度開拓が進み、人が集まっている所へ貴族が送り込まれて領になるらしい。 領主は、その場所にある建物などを利用して、領主屋敷を作る。「それじゃ、なにもない荒野にポツンと、投げ出されて領になる――なんてことはない?」「通常はありません。それでは領民も、いないじゃありませんか」「そりゃそうだな」 一応、ここにはサンタンカの村があるから、通常であれば男爵領ぐらいの規模になるようだ。