ダグラス家の件もありますし、長居はしたくないですね。おそらく奴らは洞窟の入口を張っているでしょう』『ふふふふふ、洞窟を通らず帰るというのにね?』『空間転移魔法で帰れますが、ここでは使えないので宿を引き払った後、どこかで合流したいと考えてます』『客が消えたとあっては騒ぎになるからね。わかった。二時間後、エッドの門を出たところで落ち合おう』『わかりました。では――』『――あぁ待ちたまえ』 まだ話したい事が?『何でしょう?』『ブライト君から聞いたよ。限界突破の魔術とその媒体が欲しいみたいだね?』『……その通りです』『もっと早く相談してくれれば、今回のような取引は必要なかったのだがね?』『あれ? そうだったんですか?』『自宅に置く事が出来る権力くらいは持っているんだ。ポーア君に譲るくらい訳ないと思わないかね? 君は私の友人だと思っているのだから』『……初耳ですね』『はははは、まぁこういった関係は口に出すものでもない。せっかく穏健派のフルブライド家の長男に空間転移魔法を教えてもらえるんだ。有難く、そして有効的に使わせてもらうとしよう。ポーア君とはこれからも友好的な関係でありたいものだ』 念話で親父ギャグをまぶす人間は初めてかもしれない。 ポルコとの念話連絡を終えると、俺はほっと息を吐きながら腰を上げる。「終わりましたかっ!?」 足下をくるくる回るポチが目を輝かせながら聞いてきた。「一時間半くらい時間が出来たぞ。それからポルコ様と合流してクッグ村に帰る事になった」「では行きましょう! どうやら生魚が載った料理は鮨というそうです! さぁ行きましょうマスター! 鮨が私たちを待ってます!」 そんな壮大に言われてもなぁ。 だが、早くはないとはいえ、まだ朝だぞ? もう店はやっているのかね? その後、宿を引き払った俺たちは、主人にオススメの鮨の店を教わった。 その中で俺たちはエッドの入口に近い「魚月」という店へ行く事にした。「……へぇ、朝からやってるし……それに、立ち食いなのか」「むきぃー! カウンターに前脚が届きません!」 ポチがぱたぱたと頑張ってるのを横目で見ながら、その隣のブライト少年の気まずそうな顔に首を傾げた。 どうやら周りを気にしているようだ。 あー、いいところのお坊ちゃんだし、立ち食いだしな……。それに周りで鮨を食べる人間を見ても実に庶民的な店だという事がわかる。 流石にまずかったか?「他の場所にします?」 そう耳打ちすると、ブライト少年は首を振った。「いいえ大丈夫です。これも勉強のためです。それに、僕が言い始めた事ですから」 ふむ。知識として鮨の事は知っていても、こういった店だとは知らなかったのか。 確かにポチに鮨の事教えたのはブライト少年だしな。 これも社会勉強……か。「ご主人! お鮨ください!」 いつの間にか俺の肩まで登っていたポチは、快活にそう言った。 胸元がやたらはだけてる主人も、ポチの声に反応するように大きな声で「あいよっ」と叫ぶ。「何がいいんでぃ?」「美味しいやつです!」「お任せ……で、いいのかな旦那っ?」「あぁはい。それを四人前お願いします」 すると魚月の主人は流れるような手さばきで鮨を握り始めた。 ……凄いな。これは宙図の動きに通じるものがあるな。おそらくこの主人も何年も修行したに違いない。 一口サイズの米と、一口サイズの魚の切り身を融合させるだけと思えるような手軽さを感じるが、その実、高度な技術を必要としている。 うーむ…………奇抜だが複雑な建物をいくつも見て思っていたが、トウエッドの技術、侮れないな。 瞬く間に台に載せられた鮨は、ポチの瞳を輝かせた。