そう思いつつも心配で、馬車から出たリヒャルトを窓越しに見つめた時だった。 急に門番たちの動きが慌ただしくなった。門の中がなにやら騒がしい。 何事だろうと見れば、リヒャルトも驚いたようにそちらを見ている。 (なんだろ? 誰か有名人でも来たのかしら?) 門番たちの注意がそちらに向いているのを確認し、ミレーユはこっそり馬車の扉を開けて顔を出してみた。 門の中へ続いている石畳の道を、こちらに向かって一台の馬車がやってくる。 それはすぐ門の前で停まった。美しい身なりの従僕たちがすばやく絨毯を広げ、うやうやしく馬車の扉を開ける。 (……って、あああ────っっ!?) 馬車から降り立った金髪の青年に、ミレーユは目をむいた。 有名も有名、今この王都でもっとも有名人であろう人物──アルテマリスの王太子殿下が、そこに立っていたのだ。 思わず外に飛び出したミレーユを、彼は笑みをたたえて見つめてきた。 「おやおや……。王宮へ来るなり二人だけで遊びに出かけるとは、お熱いことだな、大公夫妻は。しかし迷子になったからといって、鳥に私を呼び出させるとは感心しない」 ゆったりと言いながら歩いてくる彼の背後で、馬車に留まっていた真っ白な鳩が羽ばたいて飛び立っていく。 あれがリヒャルトの言っていた『連絡』だったのだろうかとか、そういう『設定』にして迎えに来てくれたのかとか、そんなことを問いただす余裕はなかった。 「ジーク……」 どちらからともなく、ミレーユとリヒャルトの口からつぶやきがもれる。 呆然と立ちつくす二人の前まで歩いてくると、彼は、懐かしささえ感じる意地悪な顔で笑った。 「──おかえり」 あとがき こんにちは、清家未森です。あらためまして新章は『婚前旅行編』になりました。 『花嫁修業編』で存分に仲良くさせられたので、主人公カップルのいちゃいちゃはちょっと抑えめで行こうかなぁなんて思ったりもしていたのですが、いざ書いてみると、ひょっとしてこれまででも一、二を争うくらい二人のシーンが多いかも? という巻になってしまいました。 自分の中ではまだ里帰り編(仮)の名残が強かったこともあって、懐かしい人たちとの再会シーンは書いていてとても楽しかったです。まだ再会を果たしていない人たちとも早く会いたいですね。 ねぎしきょうこ先生、素敵なイラストをありがとうございます。ミレーユがどんどん女の子らしく可愛くなってきてとても嬉しいです。修羅場を励まし続けてくださった担当様、関係者の皆様、お世話になりました。そして読んでくださった皆様、ありがとうございました! また次巻でもお会いできると嬉しいです。