長き一日の終わり 倒れて意識を失ったアズリー。 その傍らで騒ぐ、黒狼。「マスター! だだだだ大丈夫ですかっ!? わ、私の事わかりますか!? 大変です! マスターが間抜け面に!?」 ポチの、いつものからかい混じりの心配。 だが、今回だけは違った。アズリーからの反応が一切なかったのだ。 次第にポチの顔色が変わる。「マスター! 大丈夫ですか!?」 先程とは明らかに違う真剣なポチの声。裏返る声と共に、アズリーの肩下に鼻を潜らせ、首を上げてアズリーを仰向けにする。 それは、今まで見た事のない、アズリーの精根尽き果てた顔。「アズリー! しっかりしなさいアズリー!」 アイリーンの心配そうな声と、「アズリーさん!」 泣き入りそうなリナの声。 次第にアズリーを中心に、無数の戦士、魔法士たちが近寄る。「ほいのほい、ハイキュアー・アジャスト!」 ウォレンが特級回復魔法を放つも、そもそもアズリーの身体に傷はない。「ほい、ギヴィンマジック!」 オルネルが持続型魔力回復魔法を発動するも、やはりアズリーからの反応はなかった。 ポチがアズリーの胸に耳を当てる。「心臓が……動いてません!?」「ポチさん、どいてください!」 いち早く動いたウォレン。 アズリーの胸に両手を押し付け、マッサージを始める。「アズリー! おいしっかりしやがれっ!」 駆け付けたブルーツが、大きく叫ぶ。「アズ君! こんなとこで死んじゃ駄目だよぃ!!」 メルキィが、「アズリーさん! しっかりしてくんなまし!」 春華が心配そうに叫ぶ。 リナとフユは震えながら涙を流し、アイリーンはウォレンのマッサージに合わせ風魔法で酸素を送った。 戦士、魔法士の間を割り、傷付いた身体を引き摺りながら、リーリアがアズリーに近付く。「ウォレン、代わりなさい。私がやるわ!」 ウォレンと交代したリーリアが拳を振り上げる。「アズリーの身体は今やトゥース並みに強靭。その程度じゃ心臓に刺激は届かないわ……」 強く拳を握り、リーリアはアズリーの胸に力一杯拳を振り下ろした。 大地にすら伝わる程の、鈍く強く、そして重い衝撃が、あたりにこだまする。 だが、それでもアズリーの心臓は動かなかった。 リーリアは、何度も力を込め、アズリーの胸を叩く。 諦めず、諦めず……何度も、何度も。 遠くからそれを見るトゥースは、大きく溜め息を吐いて、素早い宙図をする。「ほい、サンダー」 アズリーに届いた下級の雷魔法。 アイリーンの風魔法、ウォレンとリーリアのマッサージ、トゥースの雷魔法が合わさり、「マスター!」 ポチの声が響く。「……っ! カハッ!?」 ようやく訪れた、愚者の目覚め。エッドの銀の屋敷。 ブルーツがアズリーをそこまで運び、他の皆も戦後の疲労から壁に身体を預けながら休んだ。 ブレイザーやウォレン、アイリーンなどは、戦後処理のため事務作業に追われつつも、心の片隅には、アズリーへの心配があった。「本当に心配したんですよ! わかってるんですか、マスター!」「……あぁ」 ベッドから身体を起こし、壁に背中をつけながら、アズリーは己が両手を見つめている。 ポチの小言など耳に入っていない様子で、両手を……しかし両手でない虚空を見つめているのだ。 ポチも、それがわかっていたからこそ、小言を続けた。 アズリーの心が、ここから、この場所から離れないように。「大体マスターはいつも頑張り過ぎなんです! ずっとずっと頑張って、止まれなくなるまで頑張っちゃうから駄目なんです! 少しはトゥースさんを見習ってもいいんですからね! 勿論、限度はありますよ!」「あぁ」「これに懲りたら、少しは休むべきです! いいですか、休む事、これが大事です!」「あぁ」