さて、決勝戦。 お相手は、うちの執事キュベロだ。「脱いでもいいぞ」「いえ、私はこの恰好で。ファーステストの執事として、セカンド様と対峙したく思います」「そうか」 相変わらずピシッとした執事服姿。見ていてまあまあ暑苦しいが、ここは本人の意思を尊重しよう。「ふぅっ……」 キュベロは一つ息を吐くと、集中するように目を瞑り、だらりと垂らした手を体の横でぷらぷらと振った。 いいぞ、リラックスしていけ――と、そう思った瞬間、俺は不意に思い出す。「セカンド様」「……ああ」 まるで、あの時のようだ。 しかし、明確に違うのは……。「私とお手合わせ願いたく存じます」 あの時と一言一句違わぬ言葉。ただ、その男の顔からは、緊張など欠片も見て取れない。 あれほど俺を怖れていたのに、だ。今や、微塵も臆さず、一歩たりとも退こうとはしない。 ……成長したな、キュベロ。 お前がファーステストの執事であることを誇りに思う。「キュベロ。俺はな、お前みたいな気合の入ったやつは、大好きだ」「……光栄です。この上なくっ」 涙もろいやつめ。 思わず、右の拳を突き出す。ああ、顔が綻んで仕方ない。 最初は遠慮がちに差し出したその手。しかし、それは、徐々に、力を帯びていった。 こつん……と、キュベロの拳が、俺の拳にぶつかる。 目と目が合い、どちらからともなく、笑った。「――互いに礼! 構え!」 静かな時が流れる。 ゆっくりと離れ、位置についた俺たちは、拳を構え合った。 装備など付けない。 あの時を再現するように。あの時との違いを確認し合うように。 さあ、魅せなければいけないぞ。 お前の拳など、まだまだ俺に届かないということを。「――始め!」 初手、《龍馬体術》からの、跳躍。 キュベロの二手目は……《龍王体術》か!「如何です!」「最善ッ」 いいねぇ本当に。直前の試合で一度見せているから、待ち時間中にその対策を思い付くだろうと、そう読んでいた。これはキュベロへの信頼だ。 だからこそ俺は、キュベロの手前への着地を見せながら、空中で《角行体術》を準備する。「!」 目敏く察知したキュベロは、龍王を即座にキャンセル、《角行体術》の準備を始めた。「オラァ!」「くっ!」 三手目、着地直後、角行によるサマソ。キュベロは、これに角行の回し蹴りをぶつけて防いだ。 五手目、俺が選んだ追撃は《飛車体術》。溜めるほど強力なパンチ。 キュベロの対応、六手目は《銀将体術》だった。俺が飛車を発動する前に潰してしまおうという狙いか。 悪くない。悪くないが……鋭さに欠ける。「な、何を……!?」 キュベロの《銀将体術》が発動する間際で、俺は《飛車体術》をキャンセルし、《歩兵体術》を発動した。 普通に考えて、歩兵では銀将に火力負けする。キュベロの困惑も仕方がないだろう。 ……何度かお前らにヒントは与えていたが、やはりこの短期間で身に付くような技術ではないということも理解している。 そう、まだまだこれからだ。 ゆっくり、ゆっくり、成長していけばいいさ。 じゃ、よく見ておけ。闘神位戦の醍醐味ってやつを。「――っ!!」 銀将によるパンチを繰り出した瞬間、キュベロは気付いたのだろう。息を呑み、目を見開いた。 そうだ。同系統スキルの発動タイミングを0.02秒差以内に収め、拳の速度と方向を揃え、ぶつけると……。「相殺される」 銀将が歩兵によって相殺、すなわち無効化される。