クソッタレ、目から汗が出てきたぜ。止まんねえよ。「自分のみじめさを散々味わって泣くほど苦しんで、できれば忘れたいことなのに、誰にも知られたくないことなのに、わざわざまわりに自分から広めろと? 自分の屈辱をなぜ自分で暴露しなければならないんですか? 一生俺に苦しめと?」 なんでこんな屈辱的なことを家族や恩人の前で言わなきゃならんのだ。 ああそうだよ、俺は負けたんだよ。佳世をめぐっての争いで、池谷に負けたんだよ。完膚なきまでにな。「だいいち、そんなことは佳世が言うべきことでしょう。裏切ったのは佳世です。俺は何にも悪いことをしてないのに、そんなことまで責任を取らされなければならないんですか?」 あくまで冷静に涙を流しながら訴える俺の心境を理解してくれたのかは不明だが、佳之さんはもちろん、オヤジもおふくろも佑美も菜摘さんも、そして佳世も、一言も発しない。微動だにしない。「……俺なんて、ただのみじめな男なんですよ……ちくしょう……」 ほーらやっぱり。 俺もう号泣。ただただ情けなく号泣。 琴音ちゃんと一緒に居れば忘れたふりができてたのに。 記憶の奥底に眠っていた屈辱があふれてきて、どうしようもなくて。 俺は一生、この屈辱を忘れ去ることなんてできないんだなと、この時痛感した。 どこかで見た。 浮気ってのは、心の殺人なんだと。 俺は幸か不幸かそこまではいかなかったけど、癒えない傷を負ったことは間違いない。「あ、あああ、あああああぁぁぁぁぁ……祐介、ゆうすけぇぇぇぇ……本当に、ほんとうにごめんなさぁぁぁぁいいいいぃぃぃぃ……どうかしてた、わたし、どうかしてたぁぁぁぁぁぁぁぁ……わたしが、わたしが全部悪いのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……」 つられて佳世も号泣。まわり呆然。何この茶番劇。 お涙チョーダイの番組みたいだ。『それは秘密です!』のご対面コーナーかよ。桂小〇治もびっくりだわ。「……すまなかった。私が浅慮だったよ」「佳世が、佳世が本当に……ごめんなさい……」 佳之さんどころか菜摘さんまでうなだれてしまう。「……祐介。話も聞かずに殴って、すまなかった」「お兄ちゃん……ごめんなさい」 オヤジも佑美も、場の雰囲気にのまれたのか、謝罪をしてきた。 菜摘さんが佳世の頭を両手で優しく包み、母さんは俺を抱きしめてくれたが。 俺も佳世も泣き止むことはなかった。 ああ、琴音ちゃんに会いたいなあ。 この苦しみを、怒りを、屈辱を、唯一わかってくれていた琴音ちゃんに。