見てごらん。大きなお肉をエルフさんは両手で掲げているんだ。やったーと言いながら。とてもじゃないけど悲しくなるようなことなど言えやしない。 黒猫がにやりと笑ったのを見て「あっ、確信犯だ」と思った。 ごく自然な笑顔で僕はマリーを褒めたたえ、そっと黒猫をこの手に預かった。「インチキはだめ」 ぶにっと鼻先を押しながらそう言うと「なーう」と吹き出しそうなほどふてくされた顔になる。 楽しみにしている人もたくさんいるんだから、自分の欲を最優先したらいけないんだよ。いくら偉い魔導竜だとしても。 ちぇっちぇっ、めんどくさいやつ。 いつもの可愛らしい顔を台無しにして、黒猫はそんな顔をした。 彼女を腕に抱きなおしていたそのとき、わっと福引所が沸いて僕らは驚く。そこにはたくさんの白い玉に囲まれる紫色の玉があったのだ。 引いた福引は計10回。 うちティッシュ5つ、駄菓子が3つ。 先ほどの豪華な黒毛和牛。ただしインチキ。 さらにはエルフさんの招き寄せたビールセットと、見事に飲食類に偏ったわけだ。 正当な幸運の力によってビールセットを手にした少女は、もちろんこれ以上なく得意そうな顔をしていた。「ふふん、掴んでしまったわ。福引のコツを。こうやって力を込めて、ググーッと回すことかしら。そうすると不思議な力を感じ取れるの。といっても剣士のあなたには分からないでしょうけど」 ふふんというおすまし顔も、頬を赤く染めていて可愛らしい。 買物袋はさらに重くなってしまったけど、棒状の駄菓子をサクッと頬張るエルフさんが嬉しそうだったので良しとしよう。「んっ! コーンポタージュ味! ふわ、笑っちゃう。思っていたより美味しくて」 くつくつと腹を抱える様子には、僕まで勝手に笑みを浮かべてしまうよ。 ただのなんでもない福引で楽しい気持ちになるなんて。あーんなさい、と明太子味を近づけられてしまったら、きっと僕でなくても声を出して笑ってしまう。 空は綺麗に晴れており、そういえばお正月はいつも晴れだったなと思う。 寒々しくも澄み渡る空を眺めつつ、さくりと香ばしい菓子を僕は頬張った。思ったよりもそれは明太子の味をまったく再現しておらず、つい吹き出しそうになる。 美味しいね、と笑い合った。