「おれ、最初に目覚めた時、全く記憶が無くて混乱してたんです。そんな状態で外に飛び出した時、街の人から怒号を飛ばされました。人でなし、最低野郎、犯罪者って……」「……、」 ゲオルは思い出す。そう言えば、勇者達が出発する直前、街の者達と少し揉め事があったと耳にした。つまり、あれは記憶を無くしたユウヤが街に飛び出し、そこで住民たちから非難を浴びた、というのが真相というわけか。「最初は本当にわけがわからなくて、困惑しっぱなしでした。でも、後から話を聞いて、前のおれがとんでもない奴だったんだって分かりました。んでもって、ゲオルさんの話を聞いた時、改めて思ったんです。自分は本当にロクでなしのクソ野郎だったんだなって。こんな奴が勇者だなんて、本当に笑えないですよね」 苦笑……というにはあまりにも悲しげな顔。 人の評価は行動で決まる。 内面がどうの、実はこういう性格だっただの、そんなもの他人は知ったことではない。人前で常に良いことをしていれば善人と思われ、常に悪行をしていれば悪人と思われる。それが全てだ。 自分自身が行った非道。それを自分は覚えていないが、周りはしっかりと覚えている。いや、実際にその目で見ていなくても、話を聞けば分かる。 他人の話を一切聞かず、自分勝手に他人を傷つける。自分の世界だけで生きている男。 それこそがタツミ・ユウヤという人間なのだと周りの者は思っている。 ゲオルやゲーゲラの街の人々、そして恐らくはユウヤ自身も。「許して欲しい、なんて都合のいいことも言いません。ただ、もう一度謝っておかないとと思って……勿論、謝って済むだなんてことも考えていませんけど……」「それが分かっているのなら、謝罪の言葉など口にするな。今の貴様は記憶がない。自分が何をやったのか、正しく理解できていない。やったかもしれない。そうかもしれないという漠然とした状態で謝罪されても、こっちとしては不愉快以外の何物でもない。謝罪するなら、全てを思い出してからにしろ」 ゲオルが今、感じているのはそれだった。 自分は覚えていないけど、悪いことをしたのはわかってる。だから謝る……などというのははっきり言って謝罪ではなく、ある種の挑発に近い行為だ。 無論、ユウヤにそんなつもりがないのは分かるし、彼が本気で悪いと思っているのは理解できる。だが、納得はできない。「そう、ですよね……今のおれには謝罪する権利すらない。本当に、おれ、何も持ってないんですよね……」 乾いた声で、そんな言葉を口にする。 記憶を無くし、聖剣も使用不可。今の彼は、勇者という肩書きすら、ほぼないに等しい。 己の在り方全てを欠けた男。それが、今のユウヤなのだろう。 そのことに対して、同情はしない。そんな余地など微塵もない。彼がしたこを考えれば当然であり、むしろ相応の報いであるとさえ思える。 しかし、だ。ゲオルは何故か、ユウヤに対し、問いを投げかけてしまう。