明くる朝。 俺はクーラの港から小船を一隻チャーターして、アイソロイスの島へと向かった。 それほど沖ではないので2時間もすれば到着する。 島に降り立って、ふと思い出す。アイソロイスは朽ち果てた巨大な古城のダンジョンである。メヴィオンでは「そういう設定」で片付いていたが、この世界には「歴史」がある。もしかするとこの古城の主もかつては存在したのだろうか? だとすれば、ここはいつからダンジョンになって、いつから魔物がはびこっているのだろう。一度文献を漁って調べてみるのも面白いかもしれない。 などとどうでもいいことを考えながら歩いていたら、アイソロイスダンジョンの目の前に到着した。全貌が分からないほど大きな古城はやけに暗く、不気味な静けさがある。入口は正面の城門ただ一つ。門番の魔物が2匹いる。ボスは二つある最深部のうちの一つ“最上階”にいるが、俺の目的地はもう一つの最深部である“地下大図書館”だ。「とりあえず図書館までちゃちゃっと行こう」「御意である」 俺は駆け出し、2匹の門番の前で止まった。門番は禍々しい黒の鎧を着た身長3メートル近くあるゴツい騎士の魔物である。「変身」 前方から迫ってくる門番が長剣を振り下ろさんとした瞬間を見計らって《変身》を発動する。体を捻り、右手を前へ、左手は腰へ。即発動できるよう、ポーズはなるべく簡素に設定した。「――――!」 俺の全身から迸った青黒い雷で、門番の鎧騎士2匹が吹っ飛ばされる。 変身過程中に一定範囲内にいる敵性キャラクターは必ずノックバックを食らう。約8秒間の無敵時間と同様、変身において非常に重要な効果の一つである。メヴィオン運営は変身の“お約束”をよく分かっていたようだ。 そして、更に重要なことが一つ。それは無敵時間が約8秒に対し、変身完了まで約6秒ということ。すなわち「2秒間だけ無敵のまま行動できる」のである。 それがどういうことかというと……「こういうことだッ」 俺は6秒経つやいなや、鎧騎士へあえて接近した。 すると鎧騎士は未だ健在のノックバック効果でバシッと弾かれて、大きく距離が開く。こうすることでこちらは十分なスキル準備時間を用意できるという寸法だ。 騎士系の魔物には魔術攻撃がセオリーである。俺は《飛車弓術》と《雷属性・参ノ型》を複合させ、未だ遠くでダウンしている片方の鎧騎士へと放った。ボガッと頭部が吹き飛ぶ音がした。残りの1匹は丁度起き上がるところだった。スキル準備が余裕で間に合ってしまう距離である。同様に「飛車雷参」で仕留めた。「圧倒的ではないか!」 アンゴルモアが機嫌良くそう言った。「今回はどっちもクリティカルが出たから一撃で倒せたが、出なかったらもう少し時間がかかった。圧倒的ってほどではない」 俺はアイソロイスダンジョンを奥へ奥へと進みながら説明する。 そう、このクリティカルが何とも曲者なのである。別に出なくてもいい時にバカスカ出て、ここぞという時に全く出てくれない。こいつに頼ったら終わりだ。あくまでオマケ程度に考えておかないと痛い目を見る。 ユカリに頼んで《付与魔術》でクリ率上昇の効果を装備に付与しまくって「クリ100%装備」を作ってもよかったが、それをやり始めると泥沼だ。金と時間が湯水のように減っていく。前者は容認できても、後者ばかりは許容できない。 しっかし、《変身》九段・《クリティカル》九段・《飛車弓術》九段と《雷属性・参ノ型》六段の《複合》、攻撃速度特化とはいえ五段階強化のミスリルロングボウで、魔術耐性の低い騎士系を相手にクリが出てギリギリ一撃か……少々キツイかもしれん。