確かに寝台に起こした身体には少しのふらつきも弱々しさもなく、しっかりとしている。苦しそうな様子も見えない。 だが……エリノアはその表情に何か違和感を覚えた。 顔色があまりよくないのはいつのもの事だか──そこには、いつもは感じられない静かで確信に満ちた自信のようなものが見て取れた。 普段のブラッドリーは、素直で優しげな雰囲気の青年だ。病弱で頻繁に床に伏せって、辛いのは自分自身であるだろうに、姉やリードたちを気遣うような…… それなのに──今、目の前に居る黒髪の青年は、どこか別人のような顔でエリノアを見る。 薄暗い中にエリノアと同じ緑色の瞳が爛々と輝いていて、その危険な光にエリノアは思わず片足を一歩後ずさりさせる。「……ブラッド……? どうしたの? 何か変よ……」 姉の戸惑ったような声を聞いて、ブラッドリーは瞳を細めて微笑む。「心配しないで。姉さんには何もしないよ」「……それ、どういう意味……?」 どこか剣吞な響きの声音にエリノアが眉間に皺を作る。 ブラッドリーはそんな姉に、口元で弧を描いてみせる。が──緑の瞳は冴え冴えとして笑ってはいなかった。 ブラッドリーは静かに、淡々と言う。「姉さんが……聖剣を抜いちゃったりするから」「え」 その囁くような声に、エリノアがぎくりと息を呑む。 ──僕もまた、目が覚めてしまった