謁見の後、俺とマインは宮廷をぶらついた。 マインは俺との約束をしっかり覚えていたようで、「宮廷の案内」という名目で俺に肆ノ型の魔導書を目にする機会を作ってくれた。結果、俺は“チラ見”に成功する。実にありがたい。これで火水風土の肆ノ型を苦もなく習得できた。 ひとまず、余っていた経験値で四属性全てを16級から5級まで上げておく。ちなみに雷属性はというと、既に壱ノ型から肆ノ型まで全て高段へと上げてある。伍ノ型については龍馬・龍王のように必要経験値量がハンパではないので、初段で止めておいた。 そして、ぶらり旅の最終地点。王宮からほど近い場所にある宮廷魔術師の拠点へと、挨拶に訪れた時。 マインと共に訓練場に整列する宮廷魔術師たちの前に立って、そこで初めて気が付いた。 俺、微塵も歓迎されとらん。 そう。『第一宮廷魔術師団特別臨時講師』になったはいいものの、だ。 よくよく考えてみれば、ぽっと出の若造がいきなり講師など、エリート中のエリートである宮廷魔術師様方が素直に受け入れてくれるはずもないのである。 マインと一緒に来たのがマズかったか。第二王子のコネだと思われたに違いない。事実、コネだから始末が悪い。だからといって、マインがいなくなるのもマズそうだ。彼らは第二王子がいる手前、仕方なく整列しているといった風だ。マインがいなくなればすぐにでも解散しそうな雰囲気がある。「講義なんて必要ありません」とか今にも言い出しそう。「セカンドさんです。これから一ヶ月間、第一宮廷魔術師団の講師を務めてもらいます。以後、皆は彼の指示に従うように」 マインが俺を紹介すると、宮廷魔術師の皆さんは「はっ」と頷き返事をする。マインに対して返事をしているはずなのに俺を睨みつけるのはやめてほしいところだ。特に最前列右端の黒髪ボブカットの小さい女。もうこれでもかってくらい敵意丸出しである。「大丈夫そうだね。じゃあボクはもう行くね。セカンドさん、頑張ってね」「お前もな」「うん! えへへっ」「待て、えへへじゃねえよ。これのどこが大丈夫なんだよ」「恐らくセカンドさんならどうせ大丈夫だよ多分」「……言うようになったなお前もな」 小声で言葉を交わし、訓練場を去ろうとするマインをなんとか引き留めんとする。その時、最前列の真ん中にいた赤毛のてっぺんハゲの50歳くらいのオッサンが口を開いた。「王子、お待ちを! 納得せぬ者が多すぎます。このままでは足並みが揃わぬことは明らか。王子から一つ、何か申していただきたい」 おお、このオッサン良い度胸だ。王子に対してこれだけ言えるってことは、なかなか地位が高く、そして信の置かれている人物だろう。多分この人が第一宮廷魔術師団の団長だな。よし、赤ザビエルと名付けよう。いや、ザビエル希少種、ザビエルベス……うーん、ザビエル2Pカラーも捨てがたい。「ゼファー団長。それは王子であるボクが気にするところではなく、団を取りまとめる貴方と、反感を買っている本人が気にするところです。ボクが口を挟めば、団のためにならない。違いますか?」「むぐっ……いや、しかし」 マインの正論が赤ザビに突き刺さる。やっぱりこの人が団長だった。 ……あれ? というかマインのやつ、何気に俺をディスってない? ちらりとマインを見やると「あ、やべっ」みたいな表情で顔を逸らされた。こいつ昨日の学校でのサプライズをまだ根に持っているのかもしれない。 一方で宮廷魔術師たちは、納得したように頷いている奴がちらほら見て取れた。反感を買ってるこの講師が悪いのだと、そう言いたいようだ。 俺は別に怒ってはいなかったけど、その態度を見て怒ることに決めた。怒りの矛先は幸いにもここにいっぱい集っているので選り取り見取りである。「よし、じゃあこうしよう。文句のあるやつは俺にかかってこい。何対一でもいいぞ」「ちょっ、ダメですよっ!」 マインが慌てて止めに入る。だが止められない止まらない。「ゼファー団長が一番強そうだな。歳いくつ? 俺は17だ」「儂は55だ」「そうか。じゃあ、その55年のうちどれだけ無駄な時間を過ごしてきたか特別に教えてやろう」「……面白いな、小僧。ハハ、面白い。ハハハッ!」