先としてまつられることが求められています」
と、大変にわかりやすく、かつ歯に
きぬ
衣着せず記されています。そして、
「したがって、未婚のまま亡くなった場合や、離婚したまま亡くなった場合は、イフェー(注・位牌のこと)として
まつるさいに大いに不都合が生じるとされているのです」
となっている。つまり、タブーを犯すと悪いことが起こるとされている、と。
沖縄、やっぱり独身女に厳しいっすねぇ……と思った私は、『トートーメーの民俗学講座』の著者である、民
俗学者の波平エリ子先生にお話をうかがう機会をいただきました。
とても明るい波平先生に、
「独身のまま死んだ女性はお墓に入れるか、そして位牌はどうなるかという問題なのですが……」
と、すがるように質問する私。先生のお話でも、「結婚せずに亡くなった女性も、実家のお墓には入れるの
ではないか」ということでしたが、「でもね」として、
「女性は嫁に出るもの、というのがまず、沖縄では大前提としてあるのよねぇ」
と、先生。
「でも独身のままで亡くなる人も、中にはいますよねっ。その場合はどうするのですか?」
とさらに追いすがれば、
「イナググヮンスの位牌を長く置いておくと悪いことが起こるということで、『グソーニービチ』ということを行う
場合もありますよ」
とおっしゃいます。「グソー」とは「あの世」のこと、そして「ニービチ」とは結婚。ということでグソーニービチと
は、「あの世での結婚」すなわち「
めい
冥
かい
界結婚」のことなのだそう。家庭に災厄をもたらすというイナググヮンス
は、たとえ死後でも結婚させようということなのでしょう。
冥界結婚は、離婚して再婚せずに亡くなった女性のイナググヮンスに対して行うそうなのですが、しかし相
手は誰でもいいわけではなく、
「元の旦那さんと、あの世で再婚させるのです」
と、先生。
「とおっしゃいましても、現世では離婚した夫婦ですよね? 元妻の位牌を、元夫側が引き取るものなの
で……?」
と
きよう
驚
がく
愕しつつうかがうと、
「もちろん、元夫の方が再婚したりしていれば、引き取らないこともあります。けれど元夫も既に亡くなってい
たりすると、子供が受け入れる場合もありますよ。自分の母親ですからね」
ということなのです。
グソーニービチ成立となると、位牌のみならず、遺骨もまた、元夫の家の墓に移されることになるのだそ
う。一族の人々が皆入る門中墓では、洗骨後に合葬されるのですが、イナググヮンスの骨だけは「この先、
グソーニービチするかもしれないから」ということで骨壺に入れて、いつでも取り出せるようにしておくのだそ
う。死後であっても嫁入りを待つ状態だというのです。
「でも、元夫の家からグソーニービチを拒否された場合は……?」
「そうしたら、お寺に預けるといったことになるのでしょう」