「……旦那? これって生じゃ?」「生っぽいにゃ」「大丈夫、火は通ってるよ。肉に火が通るって事は、火傷と同じだ。ちょっと熱い風呂に手を突っ込んだら沸騰してなくても火傷するだろ?」「そう言われればそうだけどよ……」「ケンイチが言うなら食べてみるにゃ」 獣人達は肉を沢山食うから、この肉の美味さを解ってくれるはずだ。「ぱく…………なんじゃこりゃ! これって本当に肉か?」「にゃー! こんな肉、食べた事ないにゃ!」「ソースも臭ぇ! けど、このくせぇ香辛料は食欲をそそるぜ!」 そう――にんにくの臭いって食欲をそそるよな。臭いのに何故なのか?「うおお! ナイフが止まらねぇ!」「にゃー! こんなの食べたら、他の肉が食えなくなるにゃ!」「そして、赤ワインで流し込むと――かぁ~! たまんねぇ!」「うにゃー! またケンイチから離れられなくなるにゃ」「なんだ、クロ助。旦那から離れる機会を伺っているなら、俺に全部任せて行っていいぞ?」「そうはいくかにゃ!」 獣人達の様子を見ていた王女も、肉に挑戦してみるようだ。王女のソースは果物をふんだんに使った物。 ナイフで肉を大きく切ると、自分の口へ運んだ。「むぐ……ふおっ! なんじゃこれは! これが肉だと言うのか? いや、これが純粋な肉の味だとすれば、妾達が食べていた物は……」「これは、本当に美味しいですわ。街で食べているような普通の肉ではないとはいえ、峠で食べた物とはまったく別物……肉の処理の仕方でこんなに違うなんて」「ふぁぁぁ……口の中が幸せで一杯……」 アネモネとプリムラにも好評のようだ。 周囲のパトロールから戻ってきたベルには、皆が食べているのと同じ肉と、猫缶をあげている。「低温で調理するので、時間はかかるのですがね」「なるほどのう……肉を調理するのには、沸騰したお湯や火――そんな固定観念がひっくり返ったわ。肉の調理が火傷と同じであれば、熱めの風呂の温度でも火傷するのう」「少々難しいですが、お城でも再現は出来ると思いますよ」「うむ、これで城の料理がまた美味くなるの!」凄い勢いで肉を平らげている王女の後ろで、メイドさん達がそわそわしている。 おそらく食べてみたいのだろう。 肉を切って、小さなフォークと一緒に皿に盛ってあげる。「マイレンさんも食べてみませんか?」「ええ……?」「よいぞ、マイレン。其方も、この驚愕の料理を食してみるがよい」「はい」 肉を食べたマイレンさんが、赤い顔をして固まっている。「どうしました? 喉につまりましたか?」 俺がワインを差し出したのだが、ちょっと違うようだ。