「あら、そういうのは日本でこそ楽しめばいいのよ。聞いたかしら、年の瀬には雪深い道を歩いて、古来からある神殿に訪れたり神様を敬ったりするらしいの。ね、どちらがファンタジーなのかもう分からないでしょう?」 うーん、期待に瞳を輝かせているみたいだけど、実際は人でぎゅうぎゅうだよ? ガッカリすることにならなければいいけれど。 しかしせっかくなら楽しんで欲しいという気持ちも強い。幸いなのは実家に帰省する予定があるので、年の瀬の情緒ある景色を伝えられそうなことだ。「年末年始は連休が多くてね、今年はなんと9連休もある。」「わーい、やった! じゃあおじいさまと一緒に、日本の冬の暮らし方を教えてもらおうかしら」 頬をかすかに赤く染め、にっこりと少女は楽しみで仕方ないと言うように笑ってくれた。 年末年始はイベントが多く、雰囲気をがらりと変える。その変化をきっと少女は楽しんでくれるに違いない。 そんな会話をしていると、頭上から声が降ってきた。「……わしも行くぞ。絶対じゃからな」 じろりと睨みつけるようにそう言われた。 迫力たっぷりであるものの、願いは「新幹線に乗って青森へ」というものなのだから威厳は乏しかった。 手土産のお肉をどう調理するかという、さきほど呼び寄せたザリーシュとの相談も終えたらしい。席をひとつ運んでくると、彼女は僕らの隣に腰かけた。「皆、第三層の開拓は着々と計画が進んでおるようじゃな。いくらでも力を貸すから、存分に楽しむがいい。無論、わしもあれこれと要望を出すがな」「よく言うわ。ウリドラこそ一番楽しみにしているくせに」 ポテトフライをかじりながらマリーがそう呟くと、黒猫のときとまったく同じ仕草でツンと顔を逸らされた。 そのまま黒曜石のような瞳は、モニターに映し出される景色をじっと見る。「古来からある迷宮は、やがて姿を変えてゆく。想像もできぬような姿にな。そこに私利私欲など無いことを、あやつらも知ればいい」 すっと彼女は指を伸ばす。するとモニターの視点は上空からのものに変わり、指し示された先に変化が起き始めていることを僕は知る。「……後退用の布陣を敷き始めている。もう退却するのか」「まったく、口ばっかりじゃなー。しかし傷ついて疲れ果てたときにこそ、この第二階層は本領を発揮するぞ?」 そう言い、表情を一転させてにやりと笑みを浮かべる。魔導竜というよりは商魂たくましさを感じる迫力のある笑みであり、なにを企んでいるのか垣間見えるものだった。 第三階層の開拓も、第四階層の侵攻も、これからしばらく大きな変化を起こすだろうと僕は予感した。