パーソナルスペースぐちゃぐちゃだなこいつ。 だが、8歳で魔術学校卒業か。伍ノ型も四大属性全て習得しているようだし、明らかに他の出場者とはレベルが違う。 研究という着眼点も良い。利益を求めるでもない、誰に公開するでもない、全てが無駄になるかもしれない、一見して毒にも薬にもならないような細かいことを、ただひたすらに熱中してやる。何処かシンパシーを感じるな。 ムラッティはきっと、【魔術】が堪らなく好きなんだろう。俺もそうだ。メヴィウス・オンラインが、堪らなく大好きだった。「良い試合をしよう」「キタコレ。セカンド氏と善戦して雷属性魔術について聞いちゃうゾの巻」「はいはい」 テンション上がり過ぎておかしくなってないか? 大丈夫だろうか。冬だというのに汗だくだ。「両者、位置へ」 いつものように、所定の位置へ移動する。 ムラッティはひょっこひょっこと歩いていった。運動神経のうの字も感じない。本当に大丈夫だろうか。 遊ぼうと思っていたが、これは相当な手加減が必要かもしれない。「――始め!」 号令。 直後、ムラッティは《火属性・壱ノ型》を放ってきた。 ……射程外から。「ははっ!」 心配は無用だった。 こいつ、分かっている!「いざ参りますよぉ!」 地面に落ちて燃え盛る炎で、ムラッティの足元に広がる魔術陣が見え難くなる。申し分ない初手だ。 恐らく、やつは“定跡”を持っている。独自の定跡を。 ならば、見定めるが吉。「来い!」 俺は横方向へ移動し、ムラッティが《水属性・参ノ型》を詠唱していることを見抜いてから《風属性・参ノ型》を準備した。 【魔術】の属性には4すくみの関係がある。「火>土>風>水>火」と、それぞれが有利属性と不利属性を持っている。 【魔術】に【魔術】をぶつけて相殺する場合、基本的には同属性、もしくは有利属性で対応できる。ただ、有利属性をぶつけた場合は、厳密には相殺ではなく“掻き消し”となるのだが、まあ大した違いはない。 ここで重要なのは、どちらが先手でどちらが後手か。同属性ないし有利属性をぶつけるのなら、後手で対応する場合のみ、相殺ないし掻き消しが可能となる。先手か後手かは【魔術】を放った瞬間に決定する。当然、先に放った方が先手だ。「よっ」「ほっ」 互いに気の抜けた掛け声で、参ノ型をぶつけ合う。 後手の俺の風属性が有利属性のため、ムラッティの《水属性・参ノ型》は空中で雲散霧消した。「おうふ」 瞬間、ムラッティのMPが更に通常の2倍減少する。これが有利属性で掻き消した場合の追加効果。叡将戦に出場するようなキャラクターのステータスなら、気にする必要もない程度の損失だ。「しかし風なら、こうですな」 次いで、間髪を容れずムラッティは《土属性・壱ノ型》を詠唱し始めた。 なるほど。なるほどなるほど! さっき俺が風で対応したことで、そこら中に水が霧のようにまき散らされたわけだ。土属性に対応すべきは、同属性の土か、有利属性の火。しかしその火属性は、現在俺とムラッティの間に舞い散っている水に不利。罠だな。恐らく掻き消し切ることができない。となれば、俺は《土属性・壱ノ型》を喰らうことになる。 ゆえに、土属性でしか、対応できない。 こちらの行動を強制されている。やはり、定跡化しているようだ。「いいぞいいぞ!」 別に壱ノ型ごとき喰らったところで痛くも痒くもない。だが、それではつまらない。 俺は即座に《土属性・壱ノ型》を準備し、ムラッティのそれにぶつけて対応した。「流石、引っ掛かりませぬかぁ。ならば」