ははは! ぬるい! ぬるいぞ! 本当にあのガストンの背を追っていたのかと問いたくなる程だ!!」「嘘……!」「おのれ……!」 ダメージは皆無に等しい。ジャンヌとヴィオラが、ビリーの外皮の装甲に驚愕する。 ここで、天獣である灰虎がビリーと距離をとった。いや、とらざるを得なかった。(……おかしい。限界突破を行った二人の大魔法の直撃。通じないとは思えぬ。このビリーという男……一体何者だ? ただの悪魔というだけではない!) 灰虎の警戒は当然ジャンヌとヴィオラにも伝わった。 そしてその警戒は攻撃の消極性に繋がり、ビリーに大きな余裕を与えてしまったのだった。 ビリーの大きな余裕。それ即ち、戦場の魔力感知にあった。(ふん、クリートは敗走か。む? イディア様の魔力が一気に減少している……これはっ!) アイリーンとウォレンが戦うイディアの魔力を感じ取ったビリーが、南方を見据える。 これをビリーの油断ととった灰虎が攻撃に移るも、ビリーは灰虎の頭を踏んでこの戦場から離れたのだった。 一度逃げに回ったビリーを追うのは、トゥースやアズリーでも無い限り不可能である。「……逃げた……?」 ジャンヌの疑問にヴィオラが答える。「見逃されたというのが正しいわね……!」 情けなさからか、強く拳を握るヴィオラ。それを横目に、灰虎は南の空を見る。(あの余力、あの強さ、恐るべき相手だ……!) そんな灰虎の懸念も束の間、北の空が赤く染まった。 それは、アズリーとルシファーの決戦の地ではない。それより手前の地で起きた強者たちの戦いの行方。「っ! ポチさん!」 そう、アズリーの使い魔ポチと、ルシファーの使い魔ヘルエンペラーの、壮絶なる戦いの行方。