菊池さんは意地悪そうな笑みで笑って僕に顔を近づけてきた。ふわっと良い香りがして、少し顔が赤くなったかもしれないけどそれよりも菊池さんから話題を振ってきたのに、そんな無防備に僕に近づくなんて……。「菊池さん、ダメだよ。不用意に僕に近づいちゃ」「あら、俺に惚れるなよって?」「もう、違うって。菊池さん……わかってて言ってるでしょ?」 僕がちょっと呆れたように言うと、菊池さんはクスクスと声をあげて楽しそうに笑った。「ごめんね。それで、今日は岩沢さんと佐々木さんと駒野さん、だったわね」「……あと、さっき伊集院さんも」「あらら、今日の被害者は4人かぁ」 被害者……菊池さんが言うように、毎日僕は数人のクラスメイト、というかクラスメイトの女子に限って僕に巻き込まれて酷い被害を受け続けている。 僕が故意にやっているわけじゃないことをみんなわかってくれてるている事もあって、僕の被害を受けたクラスメイトの女子のほとんどは僕を責めるおうなことは一切しないんだけど……逆にかえって申し訳ない気持ちになってしまう。 それに、クラスメイトのほとんどの女子と言ったように、実はたった一人だけ僕に厳しい事を言ったり、睨み付けてきたり……あきらかに嫌われたかもという女子がいる。 それが伊集院麗華さんだった。さっきだって、伊集院さんは真っ赤な顔で震えてたし……。「でも、みんな怒ってなかったでしょ?」「うん、それはまぁ……でも、伊集院さんだけはちょっと」「伊集院さんは、まぁ、ねぇ」 伊集院麗華さんの顔を思い浮かべるとどうしても苦笑しか浮かんでこない。名前からして、いかにもお嬢様という感じがするけれど、実際に伊集院さんはある企業の会長のお孫さんで、本物のお嬢様だった。 なのに何故こんなどこにでもあるような普通としか言いようのない公立の高校に入学したのか最大の謎と噂されてて……以前、クラスメイトの男子にせっつかれて伊集院さんに直接聞いてみたんだけど全然教えてくれないし。 それどころか、そんなことを聞いた僕に『わたくしがこの高校に来てはいけないとでも言うつもりですかっ!』ってかなり激しく怒られた……あれは怖かったなぁ。 まぁ、無責任な噂では幼い時から大好きだった男の子を追いかけて、って話もあったけど、その噂が真実じゃないって僕にはわかる。だって伊集院さんと幼稚園の頃から顔見知りで、同じ高校に通っているのは僕だけしかいなから。 そんな噂を流した人は知らなかったんだろうけど、僕と伊集院さんは幼稚園の頃からずっと一緒の幼馴染な上に、僕と伊集院さんだけが小学校に入学してから中学を卒業するまでずっと同じクラスだった。 その間に、伊集院さんが特別仲良くしようとした男子はいなかったし、僕ともそれなりに会話はしてたけど、楽しく話が弾んだ覚えはないし、特別仲が良かったという印象はない。