今日は楽な格好で過ごしたかったのか、薄いドレス生地は水中にいるようふんわりと漂う。とん、と一つ飛び、やはり体重を感じさせない動きで彼女はこちらへやって来た。 その気になれば人と変わらぬ色彩にも成れるらしいけど、この姿のほうが楽だそうだ。「少し待たせちゃったかな」 ううん、とシャーリーは仮面から半分ほど顔を出し、首を横へ振る。明るい色をした金髪は揺れ、かすかな粒子を散らせた。 それから彼女は思い出したように先程の小さな花輪を頭へ飾る。どこかで見たことある姿だな、と思ったらかつて女王として身につけていた冠に近しいのか。 楽しげに笑う様子へ、心を洗われるような思いを僕はした。「あ、そうだ、周囲に毒を撒いて草を殺すというのは桜の話だったか。いや、関係無いんだよ。さっき疑問に思った事なんだ」 不思議なものを見るように小首を傾げられ、いつの間にやら用済みとなった仮面は仕舞われる。それから「あっち」と彼女は指を遠くへ向けてきた。 シャーリーを見て「まるで桜の妖精ようだ」と僕は思い、先ほどは思い出したのだが――内緒にしておこう。口に出すのは少しばかり恥ずかしい。 目指す先には小さな穴があり、地下迷宮の割には花に飾られた綺麗な入り口だった。 後に聞いた話だけど、本来であれば周囲は荒れ地であり、この入口も地獄の釜の蓋を開いたような禍々しさがあったらしい。 まあ、シャーリーの恵みを受けたのなら、このような姿に変わってしまうのは仕方ない。何と言っても元階層主様だし、多少なりとも幻想的になった所で誰も困りはしないだろう。「じゃあ今日は約束通り、レアな魔物を図鑑に載せる冒険をしようか」