「え、いや、そのな、久しくあってない知人を尋ねたのじゃが」
「どう見てもご迷惑をかけているようにしか見受けられませんが」
「ご、誤解じゃ! そんなつもりではなくただ久しぶりに……」
「言い訳は無用に願います。たとえお客様といえど他のお客様に極端な御迷惑をかけるのであれば、お仕置きをさせていただくというルールは当然ご存知ですよね?」
「え、い、いや、だから誤解じゃ!」
「誤解も六階もございません、さあ、こちらへどうぞ。王族といえど、この宿屋の主は私でございますゆえ、お覚悟を」
「そ、そこはダメじゃ! そんな場所を掴まないでたもれ! ああ~……」
──さて、静かになったことだし、風呂にゆっくりと浸かるか……何が発生してどうなったのかということは一切考えないようにしよう、それがきっと正解だ。藪を突く必要はないだろう……蛇どころか怒った龍が飛び出してきそうだ。
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「ああー……生き返る……」
風呂は命の洗濯なんて言葉を言った人に思わず同意してしまいそうだ。現実ではとても望めない広々とした風呂に一人で入って、手足を思いっきり伸ばす幸せ。仮想現実の体といえど、気持ちいいものは気持ちいいのだ。はふう……といった声が自然に漏れてしまうが、この風呂場には一人しか居ない以上、そんな間抜けに聞こえそうな声も聞かれる心配はない。
(このまま目を閉じれば、うとうとと寝てしまいそうだ)
わずかにチャポチャポと音を立てるお湯と、サラサラと音を立てる笹の音の静かな音の二つ以外、この風呂場に聞こえてくる音はない。騒がしい電話の呼び出し音も、大型製作機械の轟音も、やかましい車のクラクションの音も、ここには一切ない。完全な別世界だ。