走り続けること数分―――私は目の前に現れた光景に、軽くめまいを覚えた。……わあぁ、青竜が本当に2頭いた!というか、5メートル級の青竜が2頭って、背筋も凍る光景だわね。遠目にも迫力がある青竜を、絶望的な気持ちで見つめる。……これは、討伐なんて無理じゃないかな。できるだけ早くみんなで逃げ出すのが正解だと思うのだけれど、団長たちはどうするつもりだろう?きょろきょろと周りを見渡すと、驚くべき光景が目に入ってくる。ええと?……どうしてクェンティン団長は、青竜と10メートル程の距離で対峙しているのかしら?いや、ある意味、もの凄いことだけど!!この圧倒的不利な、勝利が全く見えない状況で青竜と対峙するって、並の神経じゃあできないわよね。怖すぎて、クェンティン団長が立っていられるのが不思議なくらいだわ。……私なら全速力で逃げるな。死んでしまったら、何にもならないもの。やっぱり、クェンティン団長の考え方って私と違いすぎて、理解できないわね!そう思いながら、顔をしかめてクェンティン団長を眺めていると、ザビリアがすいと飛んできて肩に止まった。「あの2頭は番だね。繁殖前に大量の餌を探しに来たんじゃないかな。……けど、あのおかしな騎士は、本当におかしいね」ザビリアは呆れたように、ため息をついた。ええと、おかしな騎士ってのは、クェンティン団長のことだよね?「彼の中では、魔物も人間も同じ重みを持っているみたいだね。従魔を守るために、自分の命を投げ出そうとしているよ」驚いて見ると、竜がグリフォンをその爪の下に抑え込んでいた。そして、クェンティン団長は正にその竜に対して、今にも切りかかろうと対峙している。ああ、うちの団長たちは、本当に素敵ね。ザカリー団長は、たった一人の部下を見捨てる気もなくて。クェンティン団長に至っては、従魔すら見捨てる気がないなんて。私はそんな団長たちを素敵だと思いますよ!「いや、フィーア、それ違うからね。彼らは、率いてきた全ての騎士に責任があるから。一人を救うために残り全てを失うとしたら、愚の骨頂だよ」「その通りね。でも、団長たちは一人を救うし、全ても救う気じゃないかしら? クェンティン団長なら青竜を倒せなくても、グリフォンを取り戻すくらいならできると思うし」そうして、本当にどうしようもなくなったら最小限の犠牲を選択するのだろうけど、ぎりぎりまではこの全てを見捨てない姿勢を貫くのだろう。きっと、この二人はそんな団長だ。だからこそ、騎士たちの士気はいつだって高いし、誰もが団長たちを信頼している。「うん、私はそんなクェンティン団長とザカリー団長が好きですよ!」思わず声にすると、ザビリアはふうと疲れたようなため息をついた。「いや、あの二人だって、いいところは幾つかあるはずでしょ。それなのに、よりにもよって捨て身で戦闘する部分に好ましさを感じるなんて。……フィーアの好みで選ばれた、あなたの将来の恋人って、どうしようもなく面倒な相手になる予感がぷんぷんするんだけど」「ザ、ザビリア、おかしな呪いをかけるのは止めて!!」言葉には力があるんだから。言い続けていて、真実になったらどうするの?!私はザビリアの呪いを振り払うべくぷるぷると頭を振った後、皆の位置を再確認した。グリフォンを足の下に抑え込んだ5メートル程の青竜が一頭。その斜め後ろに同程度の大きさの青竜がもう一頭。クェンティン団長は青竜の10メートル手前に位置しており、今、ザカリー団長もその横に並んだ。そして、二人の団長のはるか後方に15名程度の騎士と10頭の従魔たち。聖女は……見えないから、どこかに逃げたのかしらね?