「1階はこのくらいでいい、次に進む」「わ、わかりました」「少し急ぐ。おぶさって」「え?」 フランが屈んで、ケイトリーに背を向ける。だが、ケイトリーは遠慮と困惑のせいで固まってしまい、動けなかった。「ケイトリー?」「え、でも……」「ふむ」 いつまでも動かないケイトリーに業を煮やしたのか、フランは背負うことを断念したらしい。ではどうするのか?「きゃっ!」「舌を噛まないように気をつけて」 フランがケイトリーを小脇に抱え、彼女の返事を待たずに走り出す。「きゃぁぁ!」「ここはまだいいけど、下の階に行ったら魔獣を引き付ける。悲鳴は上げないほうがいい」「ひぅ……」 おお、ちゃんと口を噤んだ。この状況で、きっちりフランの言うことを聞くとは……。冒険者になりたいというのが、生半可な覚悟ではないということは伝わってくるな。 そんなケイトリーに罠の存在を教えたりしながら、フランは駆け続ける。 時には罠を回避するために壁や天井を蹴って立体的に動き、魔獣を蹴りで仕留めながらも、一切足を止めない。「……あ、え! うわぁっと!」 ケイトリーは目まぐるしく変わる周囲の景色と、全方向からかかる負荷によって平衡感覚を失ってしまったらしい。 グルグルと回る目で周囲を見回しながら、悲鳴を上げている。「……ふわぁ」 最終的には口を半開きにしたまま、呆けた表情になってしまった。気絶はしていないが、思考停止状態に陥ったのだろう。 そして、30分後。 フランはあっという間に2階、3階も踏破し、4階の入口へとたどり着いていた。 このダンジョンで言えばここからが中盤だ。これ以上先へ進むには、全員がランクF以上か、ランクEが付き添うことが推奨されている。 1~3階の初心者向けのアトラクション的階層と違い、ここからは真の修練場。素人が油断していれば、命を落とす可能性があった。 その原因としてもっとも多いのが、フランたちの目の前にいる魔獣だ。