「アルフレッド様。間もなく王都に到着いたします」「そうか。ご苦労だった」 砂利道を行く馬車の中から、御者の言葉に返事をする男。 名をアルフレッドというその壮年の男は、ボサボサに伸びきった鈍色の髪をさらりとひと撫でしてから、手探りで馬車の窓を開けた。 彼は目が見えない。しかし耳は良い。ガラガラと大きな音をたてて進む馬車の中から御者の声を聞き取れる程度には。「賑やかな匂いがする」 鼻も良い。そして、肌も、舌も鋭い。それは彼にしか分からない特殊な感覚であった。 彼が盲目となったのは30歳の頃。それまでは、一流の弓術師として獅子の如き強さを発揮していた。 “あの事件”から十余年。現在は――鬼の如き強さへと、変貌を遂げていた。「……そろそろ、返していただきます。鬼穿将」