そう伝え終える前から、マリーは頭を肩に預けて泣いていた。寝巻に涙が染み込んで、そこからジンと熱を伝えてくる。 少女が顔を上向かせると、瞳にはいっぱいの涙が溜まっており、はらはらと頬を落ちてゆく。 そしてまぶたを閉じると、それは一斉に伝い落ちた。 もしかしたらこの日本でも、ちゃんと魔法がかかったのかもしれない。 半妖精エルフ族のマリアーベルは唇をわななかせ、しかし再び開かれた瞳には先ほどまで無かった輝きを秘めている。 マンションの一室にできた小さな秘密基地。毛布にあるふたつの頂点は狭められ、視界はさらに暗くなる。あっと思ったときには、柔らかくて温かな唇の感触を伝えてきた。きゅうと両手の指をにぎられながら。 ふうと熱っぽい息をひとつして、マリアーベルは尚も涙を零しながら僕の膝の上に座る。やはり羽のように軽く、たくさん泣いたせいで子供のような体温をしていた。「残酷で優しくて、でもやっぱりあなたらしい告白だったわ。大変、もうすぐ私は結婚をしてしまうのね」 そうだねと頷きかけて、僕はしばし凍りつく。いま彼女はなんと言った? まさかこんなに早く受け入れてくれたのか? だって人間とエルフ族の垣根もあるし、魔術師ギルドからも将来を期待されているので多くの反対があるはずだ。 なのにあっけなく受け入れられて「しばらく忙しくなりそう。おじいさまへのご挨拶と、私の両親にも伝えないといけないわ」などと耳元で呟いているのは……もしかしてただの冗談だと思われていたりしないかな……。「あら、素敵だったし、今は魔法がかかっているから本当のことでしょう? 私は良いなと感じたし、だから子供みたいに泣いてしまったし、明日はきっと目がたくさん腫れているわ」「う、ん、僕としては一世一代の告白のつもりだったのに」 まったくもう、言葉で伝えても分からないのかしらと言うように彼女は小首を傾げ、暑いのかしゅるりと襟元の紐を開く。 わずかに汗をかいた真っ白な鎖骨が見えても、なぜか僕は以前のように慌てたりしなかった。 どうして平気なんだろうと考えているうちに、よいしょとベッドをきしませて、もう少し彼女は僕の近くに腰かける。「知っていたかしら。実は私、日本で夜を過ごすのは初めてなの」「そうだった。ここはやはり夜景を楽しんでもらうべきかな」 馬鹿ねと少女から囁かれ、続いて僕の襟を引いてくる。彼女の背を抱いて支え、そしていつもよりずっと長く少女の唇の感触を味わう。ほんの少しの涙の味と共に。