「テルミン老師からです」 律義なじじいだな、と思いながら、レカンは金を受け取った。「確かに受け取った。よろしく伝えておいてくれ」 今度こそ宿に帰ろうとして、また足を止めた。(腹が減ったな) そういえば昼食がまだである。 レカンは食堂に向かった。 ツボルト迷宮の周りには二つ食堂がある。南西の位置に一つと、東の位置に一つだ。南西の食堂は高くつくが上等で品数も多い。東の食堂は二、三品しか料理がないが、安くて量が多い。 レカンが向かったのはそのうち南西の食堂だ。ツボルト迷宮の周りには剣専用の売場が二つあるのだが、この食堂は二つの剣売場のあいだにある。好みの剣を探して二つの売場を行き来しているとつい寄ってしまうという困った配置だ。 たっぷり肉の入ったシチューを三人前腹に詰め込んですっかり満腹したレカンは、くさくさした気分がすっかり吹き飛んでしまった。 そうなると、こんな早い時間に帰るのはばかばかしい。〈収納〉に収まった〈彗星斬り〉の使い心地を試してみなくてはならないではないか。 レカンは迷宮に入った。九十一階層の空き部屋で、剣をいろんな長さで発現させてみた。ただし、二倍から三倍程度の長さでだ。四倍以上となると嘘のように大量の魔力を使うのだ。 二倍で出した魔法刃を二倍半に伸ばすのは簡単だった。 ところが二倍半に伸ばした魔法刃を二倍に縮めるのはうまくいかない。しかたがないので、当面は長さを縮めるときは、いったん魔法刃を解除して、新たに出すことにした。しかしこの方法は無駄に時間がかかる。戦闘のときにはこれではまにあわない。ということは、当面は、一度伸ばしたらその戦闘が終わるまで伸ばしたままということになる。 一回の戦闘で使える魔力は、レカンの自前の魔力と、〈インテュアドロの首飾り〉を足した量だ。首飾りからは簡単に魔力が補填できるが、魔石から魔力を吸うには多少の時間がかかるからだ。それなりの量だと思っていたが、この魔法剣を出しっぱなしにしていたら、あまり長い時間はもたない。