さて、これから取り出したるはやはりこれも生クリームを使った俺達には馴染み深いお菓子である。「ってことで、はい。どうぞ」そういって取り出したのは一枚の大皿に乗った球状に近いお菓子。その名も「シュークリーム!」「ただのシュークリームじゃない! クッキーシューだ!」この世界のクッキーは俺が思っているクッキーの甘さの期待値よりも甘くない……。ならばとその食感だけは活かそうと、ホイップクリームとカスタードのダブルクリームでクッキーシューを作ろうと思ったのだ。カスタードはバニルのさやと、この世界の砂糖を更に分解、再構成して作った甘みを増した砂糖を使い、それと牛乳と産み立てで新鮮な卵の卵黄に小麦粉を使ってクリスが作ってくれたものだ。ちなみに一番苦労したのはシューの部分ではなく、ホイップクリームやカスタードを絞る絞り機の袋の部分である。なにせビニールが無いからな、金型だけなら簡単に作れたのだが押し出して絞るのには苦労した……。最終的には固めに作ったクリームを入れた極太の注射器のようになったのである。だが精製されたゴムなどないので、天然の樹液を固めたゴムもどきを使用することになったのだった。「さあ食べよう!」「ん、食べる!」「はい! いただきますね!」「私も、ずっと食べたかったんです!」皆がすぐにクッキーシューにかぶりつくのを見て、早速俺も手にとって一口食べる。「うはぁ……」外側の皮がかりっふわっとしつつ、中からしっとりとしたカスタードとホイップクリームが口内に甘みを広げていく。濃厚な甘みを持つカスタードのバニルの香りが甘さを際立て、カスタードだけでは重くなってしまいそうなところをホイップクリームがさっぱりと違った甘さを与えてくれる。口の中であまり甘くは無いクッキーを中に詰まったクリームでカリカリと食べる食感もまたいい。わざわざ普通のシューにせずに、クッキーシューにしてよかったと思わざるを得なかった。「やばいなこれ」「凄いですよ! とても素人が作った完成度じゃないですって!」「スキル様様だな。自画自賛だがこれは売れる!」売るならいくらだろう。前の世界なら一個100円~だが、300円くらいするものもあるしな。それに材料費を考えると100ノールでの販売はまず無理だ。300ノールでも余裕で赤字だな。そもそも普通の砂糖でさえ高級な嗜好品だからな。でも庶民が買えるくらいの値段でとなると……ぎりぎりで一個1500ノールか……。「え、販売するんですか!? 売るならいくらでも買いますよ!」「まあ待て待て、隼人のはクリスがこれから作ってくれるから」「はい! 館にある『道具箱アイテムボックス』に沢山生クリームとカスタードをいただきましたので、これからいつでも作れますよ!」『道具箱アイテムボックス』隼人の館の厨房に、異様な形の箱があったのだ。いやまあ俺は良く見た覚えがある物だったんだが、まさかこの世界でお目にかかるとは思えなかった。それはバイト時代に見た、業務用4枚扉の銀色の冷蔵庫。クリスに聞くと、ダンジョンの最深部の宝箱に入っていた魔法の袋(大)に入っていたものだそうだ。時間を停止させた状態で中身を保存できるらしい。つまり見た目は冷蔵庫だが、冷やすわけではなく魔法空間と同じ様な性能のようだ。ただし見た目どおりの収納数と持ち運びの不便さがあるようだ。それでも腐りやすいものなどを長期的に保存できるのは料理人ならば喉から手が出るほど欲しいはずだ。