旧ミランの首都ミルカディア。 総督府が置かれた王宮の最上階からは、堀と城壁の向こうに穏やかな街並みが見渡せた。 正午には間のある時刻、その部屋の窓際に立って、いくつかの建物を愛でるように眺める黒ひげの男がいた。「さて、スカトンスキィよ。民というものは、偽りの平和と真実の戦さのうち、どちらを欲するものであろうな」 部屋には他に二人の男と五人のガドーラ兵がいた。「偽りの平和でしょう」 即答したのは下卑た顔をした長身の男だ。「では、武人はどうであろうか」 黒髭の男は地上を見おろした。 宮殿の正門から表玄関までを歩く女がいる。黒っぽいマントを纏い、金色の髪が風で騒がしく揺れていた。「アリシアですな。かつてミランの誇りと謳われた女将軍。あの者も今は偽りの平和を望んでおりましょう。なればこそ、今日もここへくるわけで」「あヤツの心。信じられるかな?」「民にも武人にも、ミランに選択の余地はありません。ましてあの女将軍には」 その会話が聞こえたわけでもないだろうに、地上のアリシアは不意に立ち止まって二人のいる最上階を見あげた。 若く美しい女である。だが青い目の光は鋭く強い。そこに宿っているのは一つは怒り。もう一つは恥辱に耐える覚悟であろうか。