「いらない……」「「え?」」 予想していなかった雲母の言葉に、俺とアリアは驚いた声を出す。 アリスさんだけは、やはり無表情で雲母の事を見据えていた。「私はまともになるって決めたの! だから、こんな勝負で得たお金なんて何一ついらない! それは株も同じ!」 雲母はそう高々に答えた。 俺はそんな雲母の様子に苦笑いを浮かべる。 ……どうやら、俺が思っていた以上に雲母は成長していたようだ。 寧ろ、俺が雲母を見習わなければいけないくらいだろう。「そうか、なら――」「ふざけないで!!」 俺が勝負もインサイダー取引も無かった事にしようとすると、アリアが怒鳴り声をあげた。「お前なぁ……」 俺は呆れたようにアリアを見る。 なんでこういう御高くとまったキャラは、お約束の様に、無駄に高いプライドを守ろうとするのだろう。 潔く諦めた方が、まだ体裁ていさいはあると思うんだが……。「一回勝ったくらいで調子に乗らないで! 同情なんて――」「ニコニコ毒舌」「はい!」「うっ――!」 怒鳴り続けるアリアの横で、アリスさんがあだ名の様な言葉を呟くと、離れていたはずの護衛の女性がいつの間にかアリアの傍に立っており、手刀一発でアリアを気絶させた。 ……今、あの女の人の動きが微妙にしか見えなかったんだけど……? 漫画の様な出来事に、俺の全身から冷や汗が出る。 俺は結構動体視力に自信があるのだが――女性の動作をはっきりと捉える事が出来なかった。 アリスさんが言っていた通り、護衛の女性はかなりの手練れな様だ。 「ごめん……頭に血が上ってるみたいだから……後はアリスが引き継ぐ……。西条の子――いや……金髪ギャル……温情……感謝する……」 アリスさんはそう言って、ニコッと笑った。「ちょ、ちょっとまって!? なんか、今の流れからしてなんでそんなあだ名がついたのか疑問なんですけど!?」 新たにアリスさんから金髪ギャルと言う名をもらった雲母が、戸惑いと驚きが混じり合ったような表情で、アリスさんに尋ねた。 そんな雲母に対して、アリスさんはクスクスと楽しそうに笑っている。 恐らくは、アリスさんなりのコミュニケーションだったのだろう。 わざと変なあだ名をつけ、雲母と距離を縮めようとしたんだと思う。 まぁ俺は、心の中で結構雲母の事を金髪ギャルと呼んでいたが……。 俺がそんな事を考えていると、先程まで笑っていたアリスさんがまた無表情に戻り、雲母の顔をジーっと観察し始めた。「な、何?」 雲母はアリスさんが自分の顔を見つめてきているので、若干後ずさった。「ねぇ金髪ギャル……大和撫子の事……どう思ってる……?」 アリスさんが『大和撫子』という言葉を出すと、雲母の顔色が変わった。 わざわざ雲母にその話を持ち出したのと、雲母の表情から、恐らくは雲母の親友の事を指すのだろう。 ただ、ニコニコ毒舌にしろ、金髪ギャルにしろ、大和撫子にしろ――何故アリスさんはあだ名として、変わった名前をつけるのだろうか……。 しかも、どうしてこのタイミングで雲母の親友の話を持ち出したのか……。 折角良い雰囲気だったのに、雲母に嫌な思いをさせてしまうだけの気がするが……。 俺がそう思ってアリスさんを見ると、アリスさんが俺の目を見てきて、頷いた。