「よくも私の仲間を苛めてくれたじゃないか、モンスターよ。今度は逆に苛められるという経験を味
わわせてやる。感謝しろ」
相手の仮面の下から吹き上がる激しい怒気など、エントマには知つたことではなかつた。
本気の殺意に塗れたエントマは走る。憎悪に支配されたエントマの脳内には、もはやあとの二人は
邪魔な石ころ程度にしか残つていない。
(——私を傍において喜ぶ者がいないだとぉ?)
何度も何度も同じ言葉が脳内を駆け巡る。
で鞭蟲を動かす。エントマが持つーメートル程度を残して、それ以外は巨大なボールを形成している。勿論、芯となる部分にいるのはガガーランである。
「仲間ごト押し潰レろォ!不快な女ァ!」
ハンマーを振り下ろすように叩き付ける。
「ふん。下らん攻撃だ」
しかしィビルアィは余裕を崩さない。
「〈重力反転〉」
エントマは魔法に抵抗したが、千鞭蟲は重カを失い、ふゎふゎと浮かび上がる。
着用者'か抵抗に成功すれば、装備品もまた抵抗に成功したことになるのだが、蝨武器の場合は着用者ではなく蟲自身が抵抗を行うことになる。
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これにょって今のょぅにエン卜マに影響がなくても、蟲武器に影響を与えることはできる。これが自動的に攻擊することができる分のデメリットの一つだ。
流石のエントマもこんな魔法を打たれては当初の計画を放棄するしかない。
エントマの意思を感じ取った千鞭趣はガガーランから離れる。まるで卷き尺を戾すょぅな速い動きで一気に十メ—トルにもなる蟲の鞭が姿を見せる。代わりに大地に転がったガガーランにイビルアイか指示を出す。
「ガガーラン!邪魔だ!ティアの傷でも回復させていろ!小手の力'か尽きているならポーションでも飲ませておけ!」
傷を受けた人間たちが回復する。それだけなら何も問題はない。二人はエン卜マの敵にはなり得ないから。しかし、目の前にいる魔法詠唱者のことを考慮すると状況が変わる。
イビルアイはエントマと同格。そこに多少でも支援が入ると、戦況が不利に傾くだろぅ。
そこでエン卜マは使いたくはなかった'か、本気の切り札を切ることを決める。
あの館で敵を一気に織滅するために使ってしまった'か、あと二回は放てる。
それは肉食蠅を吐き出す吐息——蠅吐き。
蠅が肉を貪るのではなく、肉を抉って中に入り込む蚶虫を産みつけるゥシバエに似た蠅を大量に吐き出す吐息は、蛆虫が犠牲者の体内に入り込むことで標的に継続ダメ—ジを与える。さらに恐ろしいのはそれでは終わらす、羽化した蠅が罢霞のごとき大軍を成し、そのまま効果範囲内に入った特別な者を除いて無作為に襲い掛かることなのだ。