「……」 ん? 琴音ちゃんの反応が何かおかしい。 さっきまでラリってとろけるような表情だったのに、今は口元が険しく引き締まり、背景に『ゴゴゴゴゴ』というオノマトペが見えている。「……祐介くん」「ど、どうかしたの?」「祐介くんは、きのこ派なんですか?」「……へっ?」 俺は斜め上にそれた質問に、間抜けな声をあげてしまったが。「俺は向こう十年、きのこ派だよ。やっぱりあのクラッカーの食感がいい」「クッキーとチョコのハーモニーこそ至高です!」 えっ。 琴音ちゃんはたけのこ派かよ、よりによって。 去年の総選挙、僅差で敗れた屈辱はまだ忘れてないぞ。「いやそれは違う。甘くないクラッカーと甘いチョコの組み合わせが偉大なんだ!」「パッケージ開けると折れてるきのこも多いじゃないですか! あれが許せません!」「いや、折れてないきのこは手が汚れない! それにたけのこはチョコの量が少ないだろ! あれが不満だ!」「大事なのはチョコの量じゃなくて味のバランスです!」 なぜか軽い言い合いになってしまう。だがお互いに引かぬ、媚びぬ、顧みぬ。「いやさ、たけのこ派って子どもが好むイメージだから、カレーなんかもバーモントとか好きな人多いんじゃないかな。ジャワ一択だろ常識で考えて」「爽やかな大人の辛さとか、大人ぶってるきのこ派の人が好みそうですよね」 くだらない言い合いがなおも大連チャン。「きつねうどんこそ至高だ!」「天ぷらそばこそ究極です!」「パピコはチョココーヒーこそ唯一無二!」「ホワイトサワーがパピコの代名詞です!」「ポッキーはバリエーションが豊富!」「トッポは手が汚れません!」「ビーフシチューのコク!」「ホワイトシチューのまろやかさ!」 中庭において、つい昨日正式につきあい始めたカッポーとは思えないような低レベル同士の争いが繰り広げられていた。 戦いは同じレベルの者じゃないと成立しない、とはよく言ったもので。「おまえら……なんでそんなくだらないことを真剣に言い合ってるんだ」 ナポリたんが半ば呆れて、そう仲裁してくるも。「男には譲れないこだわりがある!」「女だからこそわかる本質があるんです!」 俺は譲らない。 琴音ちゃんも譲らない。 ……いやこれ、オトコもオンナも関係なく、単に嗜好の違いじゃね? とは思ったけど、まさかこうまで琴音ちゃんと好みが違うとは思いもせず。 俺は戸惑いつつも、今さら後には引けなかった。「ぐぬぬ……」「ふうぅ……」 やがて、ゴング代わりか、昼休み終了後を知らせるチャイムがあたり一面に鳴りひびく。 ………… つきあい始めて次の日に、もう喧嘩ですかい。