うん。 今のことをナポリたんに伝えてあげれば、それで解決しそう。 気が晴れた。 俺は満面の笑みで、琴音ちゃんに向かい合う。「……今日さ、これからナポリたん家にいって、ご飯食べない? おごるから」「え? い、いいですけど……おごりというのは気が引け……」「モーマンタイだって。琴音ちゃんのおかげで、悩みが解決したお礼だよ。ナポリたんが帰ってくるまで、一緒に」「は、はい」 俺が差し出した手を恐る恐る握ってきた琴音ちゃん。そこで笑顔が咲いた。 そのままゆっくりと二人で歩き出すと、なんとなくいい気分になったせいか、お得意の軽口が、つい俺から漏れ出してしまう。「俺も、パンドラの箱をムリヤリ開けさせられたけどさ──」 ──琴音ちゃんが、希望として残ったね。 だが。 最後まで言い切る前に、つないだ手を思い切り引っ張られた。「……んあ?」 思わず琴音ちゃんのほうを見ると、頬を膨らませながら、俺をにらんでいる。「……祐介くんは、浮気するつもりなんですか?」 あれ? パンドラの匣じゃなくて、ツンドラの匣を開けちゃったの、俺?「い、いや、そうじゃなくてね」「許しません!」 ふくれっ面のまま、琴音ちゃんがつないだ手に力を込めてきて。「あいたっ」「……わ、わたしで我慢してください!」「はへ?」「もっともっと祐介くん好みのわたしになりますから、それで我慢してください!」「……」 そんなことを言われた。 怒りながら、真っ赤になりながら。手のぬくもりを感じながら。 それでも目だけがおびえている、今の琴音ちゃん。 あのさ。 俺は琴音ちゃんを裏切って浮気なんかするつもり、これっぽっちもないんだけど。 我慢どころじゃねえよ、違うほうの我慢が大変だっつの。これ以上虜にしないでくれよん。「今よりも好みになられたら俺が病んじゃうからやめてくださいお願いします」「だ、大丈夫です! 病めるときも健やかなるときも、貞操を誓いますから!」 多分この時の俺は、ハトマメ顔をしていたと思う。「……なんかさ、それって……いや」 結婚式の誓いの言葉みたい、なんて思ったけど。 これ以上琴音ちゃんを真っ赤にしたくないから、黙っておくことにしようか。 代わりに手を優しく引き寄せてあげよう。 俺にとっての唯一無二の希望は、つないだ手の先に──