……さっきから佳世のメッセージがすさまじいんだが』 あのあと部屋に戻ると、佳世からの着信とメッセージの山が、俺のスマホ内で雪崩を起こしていた。 削除するのもうざったいので着信拒否とメッセージブロックをしたが、次の矛先がナポリたんに向いたであろうことは容易に想像できる。 案の定、しばらく経ってから、ナポリたんの着信があった。 正直なところ誰とも話したくない気分だが、協力してもらってる手前ナポリたんだけは無視できないので、仕方なくきょうの経緯を話した。「……迷惑かけてゴメン」『ほんとだよ。まさか佳世がこんなに取り乱すなんてな、ボクも予想外だった』「……そんなにか」『ああ。祐介と離れたくないだの、祐介に嫌われたら生きていけないだの、祐介に会って話したいだの、なんとかしてだの、なんじゃこりゃというため息しか出ない内容が繰り返し繰り返しだわ』「……なんじゃそりゃ」『ボクは店の手伝い中だったから着信は無視してたんだが、スマホがブレっぱなしで参ったよ』「……いったいなんなんだ、今さら……」 池谷を好きなら、俺に執着する意味が分からん。 あんなに熱い抱擁をしながらブチューとかしてたくせに。 おかげで俺の心は余計に打ちのめされるわ。情けねえ。『……うんまあ、佳世にとって祐介は空気みたいなもんだろうからな』「……どういう意味よ」『人間は空気がなければ死ぬ。だがな、空気が当たり前のようにそばにあることを感謝してるやつはどれだけいる? 窒息しそうになるまでありがたみなど感じないだろ』「……」『空気のありがたみを忘れていても、おいしそうなケーキが目の前にあれば、そちらを食べたいと思い、その衝動に突き動かされる。ケーキのことしか頭になかった佳世が、窒息しそうになって慌てたのかもな』「……ありがたくねえ」『そう言うな。呼吸が楽しいなんてやつはいないし、付き合いが長いとそんなもんだろ。あと、甘えた考えもあったかもしれん』 呼吸が楽しいというヒロインはいたぞ。某告らせたいお嬢様とか。 だが、最後に聞き捨てならない言葉がついてきたので、思わず聞き返す。「甘えた考え?」『おまえは佳世に甘かったから、何をしても許してくれるだろう、という甘えた考えだ』「……」 そう言われると何も言い返せねえ。 中学時代はお互いに意識しつつも、一時期仲違いというか疎遠になってた時があったけど、突然また何事もなく接するように佳世が戻ってなあなあで許してたし。 そう考えると、今回も同じようにうまくいくと思われてたのかな。 ……つっても、俺と佳世は彼氏彼女になって半年なんだけど。どうなのそのへん。『しかし、よく公園チュー事件のことを言及しなかったな』「いや、もうそんなことを冷静に追求できる状態じゃなくて……あれほどテンパった状態は生まれて初めてだわ」『なんだ、やっぱりまだ佳世に未練は残ってるのか』「……自分でもわからん」 俺の迷いを冷静に理解したナポリたんが、少し間をおいてゆっくりと諭してくる。『まあ、距離を取ったなら、これ以上怒りに任せてうかつな言葉は発するな。ボクはボクで気になることがあるから、少し探りを入れてみる』「……気になること?」