私のポジション。俺の指定席。 天獣たちを背に、俺はようやく戦場へ戻って来た。「マスターマスター! 大丈夫ですかっ!?」 いつの間にか、フェリスを下ろしていたポチが俺の下へ駆け寄ってくる。「お前、フェリスはどうしたっ?」「あんな危なっかしい音が聞こえたんじゃいてもたってもいられませんよ! フェリスさんには一時的にチャッピーに任せてあります! だから……大丈夫…………っ!? マスター!? 後ろにすんごい怖い人たちいません!? あ、私急用を思い出しました! ちょっとブルネアまで――――」「――――おい! だったら俺も連れてけよ!」「こんな忙しい時に何言ってるんですか! 馬鹿マスター!」「お前だよお前! いいからフェリスと組んで陣形に戻れ! 犬ッコロ!」「んまー! 私がどれだけ心配したと思ってるんですか! あ、いえ、やっぱり心配してません! それよりその人たち一体何なんですか! ええい! マスターでは話になりませんっ! あの!」 ポチは天獣さんたちに物申したい事があるようだ。 だが、鋭い視線に早くも負けそうで目を肉球で覆っている。 眼力じゃ絶対勝てないんだから張り合おうとするなよ……。「なんじゃ娘? 儂等に何か用か?」「ひぃ!」「お話ならば手短に。今は火急の時。私たちの役割は非常に重要になってくるのです」「はいぃ!」「…………名は?」「シ、シロですぅううっ」 灰虎の止めの一撃で、もう完全に伏せのポーズじゃないか。 あ、でも諦めてなさそうだ。 また起き上がったぞ?「私が! マスターの使い魔なんですからね!」 ………………は?「マスターの使い魔のポジションはもう空いてないんですからね! 古来から魔法士の使い魔は一人のみ! それを破ると神様に怒られちゃうんですから! いえ、もしかしてマスターならそんな禁忌、軽く破っちゃうかもしれないですが、そんな時は私が神の肉球をお見舞いして止めてやるんですから! わかりましたね!?」 黄龍と黒亀は互いに見合って困った様子だ。 天獣を困らせる程の我が使い魔は…………一体どこへ向かっているのだろう?「…………愛い」 あれ? 今灰虎の方から変な声が聞こえたような? ふむ…………気のせいか?「安心せい娘。儂等は童の隣に立つ気はない」「ただ、付き従うのみです。さて、私たちはもう行きましょうあの方たちを…………丸呑みにしてあげなくては」 そう言って黄龍は蛇の長い身体を滑らせ、前線へ向かって行った。「ふむ、では儂はあのガキを戦場に立たせるか……」 黒亀が見る先は遥か崖の上。 そう、紫死鳥がずっと俺を睨んでいた場所。「こっちへ来いガキィ! 儂等にいじめられたくなければな!!」 うっさ!? 鼓膜が破れるかと思ったぞ!? 遠目で見ると、紫死鳥はどこかビクビクした様子で……羽で顔を覆った。「最古の天獣に不敬な…………。どれ、少しお灸を据えてやるか……」 そう言って黒亀は身体を浮かせ……た!?「と、飛んだ……飛びましたよマスター!? それに何かオーラみたいなキラキラがふわぁあって!」「そ、そうだった。天獣は皆空を飛べるんだった……。天を駆ける獣の姿から天獣と呼ばれていたんだ。はは……凄いな」「私もあれやりたいです!」 そんなどうでもいい訴えかけをよそに、俺は前線で戦う赤帝牛の方を見た。 種族改変したポチはともかく…………アイツは飛べないのか? 俺の考えを察するように、後ろにいた灰虎が呟く。「あれもまだ若い。成熟した身体となればそれも適うだろう」「なるほど。鳥である紫死鳥があの光を発さないのにもそういった理由があるのか」 待てよ? 現代にいた紫死鳥は発光していたか? もしかして何か当てはまっていない条件があるのか?「千の魔手よ」「ん? どうした?」「この戦いが終わったら――――」 何だろう? いやに真剣な表情だ。「――――ちゃんとシロを紹介して欲しい」