なんか、雰囲気的に結婚相手を決めるのは自分じゃないとかいう風潮がお貴族様の中では漂ってたから流されそうになったけれど、別に私そんな風潮に合わせなくてもいいんじゃないか? いやだって、私既に爵位とったし……。 というか、バッシュさんは、私が学園卒業したら、どうするつもりなんだろう? 今のところ、バッシュさんから聞かされた婚約話は、魔法使いのリュウキさん? でも、多分あれは、アイリーンさんの追求から私を守るための嘘だと思うし。 なにせリュウキさんはバッシュさんの一人娘であるガラテアさんの婚約者だもの。 私が将来設計について改めて考えていると、隣でアランとアイリーンさんとのレインフォレスト親子の言い合いがヒートアップし始めた。「アラン、いい加減いい人を決めなさい。魔法爵家のエメルダさんのところの娘さんなんて、どう? 姿絵も来ていたけれど、すごく可愛らしかったわよ」「だから、興味ないって何度も言ってます!」「だめよ、もうそろそろ真面目に考えないと! アランも来年で成人でしょう? それに私の次に伯爵家を継ぐのよ。世継ぎのことだってあるし、こういうのは早めがいいわ! まったく、私たちの一族の中でも近年まれに見る魔法の使い手だって言われているのよ。もうそろそろ自覚をもってもらわないと!」 そう、ものすごい勢いで話すアイリーンさんの剣幕に思わずびっくりしていると、その怒れるアイリーンさんの近くにとある人影が現れた。「母上、どうされたんですか? 母上の声が会場に響いておりますよ」 そうヒートアップするアイリーンさんをなだめるように涼やかな声をかける人影こそ、騎士爵を取得し、フォロリスト界においても他の追随を許さぬ勢いのカイン様である。 そんなさすがのカイン様が、アイリーン様の夫であるカーディンさんと一緒にやってきてくれた。 カイン様にいさめられたアイリーンさんは、「あら」と言って周りの目を確認して、息を一つ落とした。「やだわ、熱くなってしまったわね」 と言って、恥ずかしそうに口をつぐむ。 そんな可愛いらしいアイリーンさんの肩を慣れた様子で、カーディンさんが抱く。「愛しい私のアイリーン。恥ずかしそうにする君は、本当に少女のように愛らしいね。しかし、愚かな私はこれ以上、他の男にそんな可愛らしい君の姿を見せるのは、耐えられそうにない。テラスで少し涼まないかい? 君の愛らしい薔薇色の頬が落ち着くまで、私に君を独り占めにする栄誉をいただけないだろうか。今宵は月がとても綺麗なんだ」 カーディンさんが、まるで天気の話でもするかのようにさらりとポエムを刻んで、テラスへ一緒に行こうと誘ってきた。 多分興奮したアイリーンさんに外の空気を吸って落ち着こう? と言いたいのだろうけれども、言い回しが大変にポエミーである。 突然のポエムに私は真顔で成り行きを見守っていると、アイリーンさんが、「もう、カーディンったら。でも、そうね、少し外で涼んでこようかしら」と言って、うっとりとカーディンさんを見上げた。 アイリーン奥様は、ポエムが好きなんだね。「アラン、お願いだからちゃんと次期当主として自覚を持ってね」 と言ったアイリーンさんが、そのままテラスの方へとカーデインさんを伴って去っていった。 仲がよろしくて何よりだけども、息子達の前で、ポエムを平気で言えちゃうところが本当にすごい。 改めてそんなポエミー夫婦の息子たちを見てみると、カイン様がアランに素敵貴公子の微笑みを浮かべていた。「アラン、母上のことは大目にみてあげてほしい。母上は親が決めた縁談で、父上と出会って愛し合うことができたから、アランにもそういう人を自分が用意しないとと思って、気負っていらっしゃるんだよ」 カイン様がそう、アランに優しく話しかけると、アランは大人しく頷く。「わかってます。でも……俺は……」 と言ってなんだか思いつめたような顔をしたアランがなんだか痛々しかったので、ポンとその肩に手を置いた。「アラン、わかりますよ。まだ婚約とか結婚だなんて私達にはピンと来ませんよね。そういう話は早いっていうか、好きな人とかだって、良くわからないのに」 私が優しくそうアランに声をかけると、アランは不満そうに眉を寄せた。「いや、俺は、好きな人がよくわからないとか、そういう心配してるわけじゃない」 え? じゃあ、どんな心配が? 不思議に思ってまじまじとアランを見ていると、カイン様が、「えーっと」と歯切れの悪い声を発した。「その、と、とりあえず、あ、二人とも飲み物のグラスが空だよ? 何か飲み物を取ってこようか。何が飲みたい?」 と声をかけてくれた。 あ、そういえば手に持っていた飲み物が空だ。 私は、フルーツのしぼり汁ならなんでもいいかなー。 と思ったところで、目の端に真っ赤なドレスを身にまとったカテリーナ嬢が目にとまった。