――その男がやって来たのは、そんな時だった。 腕の出た派手なシャツを着た男だった。肌は白く、それは砂漠の男ではない証左である。武器などは特に持っておらず、過酷な砂漠の地を歩く装備だとは思えない。 その気配はハンターはもちろん、日夜マナ・マテリアルを吸っている村人達と比べてもすこぶる薄く、酷く場違いだった。 もともと、植林作業のために作られた、ほとんど旅行者も来ないつまらない村なのだ。 だが、子どもと美女を引き連れてやってきたその男は、リーダーの前に通されると、レベル8ハンターを名乗り、どこかすべてを諦めたような達観した笑みを浮かべて言った。「小さな『社』を用意するんだ。神様を貸してあげる」「な、何をいってるんだ、あんた……」「きっとこの地を豊かにしてくれるはずだ。もしかしたらうまくいかないかもしれないけど、駄目で元々だろ? 試してみたらいい」 馬鹿げた言葉だった。本来ならば一笑に付して然るべき言葉だ。 だが、男が提示したトレジャーハンターの証明書は本物だった。レベル8という称号には重みがあった。トアイザントに存在する最強のハンターの認定レベルが8だ。目の前の男はそこまで強そうには見えないが、その称号は無視するには余りにも偉大すぎた。 呆然とする村人たちに、そのハンター――クライ・アンドリヒは言った。「一日に一回、油揚げを一個捧げるんだ。そうすればきっと働いてくれる」「……三つ」 側にいた狐の面をした子どもが服の裾をつっつき、言う。クライはすぐに言い直した。「…………三つ捧げるんだ。ああ、あと……ついでに、これを埋めて欲しい。地中深くに、しっかりとだ。いいね?」「ああ、クライさん……そんな、勿体ない」 ピンクブロンドの女が目を見開き、小さな悲鳴をあげる。緊張感のないやり取りだが、リーダーの目はレベル8ハンター――英雄が差し出してきた神々しいまでに白い尻尾に釘付けになっていた。