「セカンド殿、セカンド殿!」「なんだなんだうるさいなシルビア」「見たか!? あの若者をっ!」 静かに観戦していると、シルビアが憤りの表情を浮かべながら俺の肩を揺すってきた。「ぱくってる!」「な! 真似だぞ、あれは!」「おろか!」「そうだ愚かだ! エコの言う通りだ!」 エコも納得がいかないのか、トゲのある口振りだ。 なるほど、二人はレイヴが『セブンシステム』っぽい動きをしていることに怒っているんだな。「いや、パクリって言われてもなあ」「なんだ、セカンド殿は怒っていないのか?」「別に」「せかんど、やじゃない?」「嫌じゃない嫌じゃない」「なーんだっ」 二人の気持ちもわからんでもないが、これで怒るってのは、自惚れだろう。「うーむ……てっきり私は怒り狂っていると思っていたが」「逆になんでそう思ったんだよ」「己の力で戦わないなんて反吐が出るな、てめぇはなんのために一閃座戦に出場してんだよ! のようにな」「しるびあ、にてる!」「フフン、だろう?」 散々な言われようだ。 確かに、そんなことを言う場合もあるだろう。特に、セブンシステムの上辺だけを真似ているような輩には。 だが、レイヴは違った。あの少年にほど近い歳の青年は、きちんと研究していた。 定跡とは、そういうものである。一度でもお披露目した時点で、研究されて、対策されて、採用されて、当然。 彼は、よくわかっている。タイトル戦というものを、よく。 カサカリもまた、よく頑張った。六手目の先手を引きつけるという選択は、決して悪くない。その後に呆気なく決まってしまったのは、手が続かなかっただけ、手を続けるだけの実力がなかっただけだ。「あいつは己の力で戦ってるよ」「しかし、気分の良いものではないだろう?」「そんなこと言ったら、お前らも定跡使ってるじゃないか」「う、うむ……しかし、あの若者とは違い、セカンド殿の許可は得ているぞ」 許可。許可か。その発想はなかった。「……実はな、お前に教えた弓術の定跡のレールを最初に敷いたのはMOSASAURUSUさんだ」「もささ……?」 別名『発掘師』、最高レート2672の世界四位。 ランカーたちが口を揃えて「終わった」と言っているような時代遅れの化石戦法を、最新定跡に勝るとも劣らない戦法へと昇華させ続ける、まさに定跡づくりの天才である。 俺含めこういった天才たちによる発見とブレイクスルーの繰り返しの中で、定跡というものは時々刻々と変化し、それが大勢の中に放り込まれた瞬間から、じわりじわりと成長していくものなのだ。「許可とかそういう問題じゃない。定跡ってのは、長い月日の中で地道な進化を重ね、今の形になる。常識は時代とともに移り変わる。常に新たな発見がある。その都度、定跡は形を変える。生み出したのは一人でも、作り上げるのは何十人何百人の研究者たちだ」「では、私の覚えた定跡は」「いわゆる“新モサ流弓術”を、更に俺なりに改良し、そしてシルビア向けにアレンジした形だな」「そ、そうなのか」「ああ。定跡ってのは、個人の財産じゃなく、タイトル戦の財産だ。出場者全員で、そのタイトルをより価値あるものに育成していく。そんな熱い意志の上に成り立った全員の技巧の結晶と言っていい」「……うむ。なんだろうな。少し、感動したぞ」