三つの要所「――のほい! ハウス! バラード! お願い!」「んきゃあああ! いきましゅよ、コノハしゃま! ほいのほいのほい! ハウス!」 チャッピー仮面が戦場から去った後、リナが後衛のトレースの下へやってきた。 気付いたトレースは、リナに指示を飛ばす。「リナさん、アイリーン様と共に支援魔法を! バラードさんを前衛に!」「はい!」「おいバラード! 特訓の成果を出す時がきたぞ! 低空から奴等を刈り取ってやれ!」「掴まっててくだしゃい!」 コノハはバラードの頭に載り、前方を指差す。 その視線は、ある一点を強く捉えていた。 かつての主人である焔の大魔法士ガストン。その仇であるビリーがいるのだ。それは当然の事だった。 しかしコノハはただ心を落ち着け、忿怒に染まる事はなかった。 それが、いつでも冷静に状況を分析し、的確に対処するガストンと同じ戦い方だからだ。 バラードとコノハはすぐに白銀たちと合流し、地面スレスレの低空を飛びながら遊撃に努めた。ある時は攻撃し、ある時は負傷する仲間を回復魔法で助けた。 その光景を見たビリーが、バラードの頭の上にいるコノハに気付く。「馬鹿な! 何故コノハが生きている!?」「ふん、鼠如き気に掛けてる事ではないだろう」「黙れ。私の完璧だった任務が、奴の存在で覆されたのだぞ!」「ぐふふふ、余程その顔の火傷に恨みがあると見える」 クリートが言ったビリーの顔の火傷。 それは、ガストンの最後の一撃の名残。この火傷は、いくら回復しようともビリーが回復出来なかった、執念とも言えるガストンの爪跡。「くそ! 見ていろ鼠め……! 今に踏み潰してくれる! 全軍投入だ!」「早過ぎるとも思うが……まぁいい。奴等に真の絶望を味わってもらういい機会だ」 ビリーの檄の後、クリートは手を上げて後衛のアルファとベータの進行を促す。 その動きに、アージェントとブレイザーの顔が一層歪む。((あれがここまで来れば、この均衡は一気に破られる!)) 焦燥隠し切れぬ思いは誰も一緒だった。 クラリスやアンリが到着するも、増強出来る戦力はたかが知れていた。余りにも数が違い過ぎるからだ。 後衛のアイリーンは、歯を食いしばりながら迫る後衛部隊を睨む。「戦力が……足りない!」 アルファとベータの侵攻を防ぐだけで精一杯。しかもその侵攻は勢いを増し、今にも前衛が瓦解しそうな状況。 しかも敵陣の最奥には、悪魔が二人並んで立っているのだ。 彼等が本気で動けばエッドの……いや、トウエッドの全滅は必至。「ぐぅ……!」「ガハッ!」 一人、また一人と戦士が倒れ、アズリーの友にその牙が届くのも時間の問題だった。 ――――だが、「およ?」 西の森から現れた三つの影。 影の一つは巨大な四足歩行の獣。 影のもう一つは黒紫の鳥。 そして最後の影は、四足歩行の獣に跨る、巨大なエルフ。「なんでぇ? トウエッドも魔王軍に追い詰められてるじゃねぇか?」 その男に最初に気付いたのは、前衛の右翼で戦っていたブルーツ。彼はその男が誰なのか知っていたからだ。「トゥース!? 何やってんだお前ぇっ!?」「決死の逃避行だ! がははははは!」 豪快に笑いながらトゥースが言い放つと、己が出番を待っていたであろうアルファとベータがトゥース、そしてブル、更に紫死鳥を睨む。「あぁ?」 物凄い形相でトゥースが睨み返すと、主よりも強い魔力に当てられたアルファとベータは、一瞬で萎縮する。「まさか、ガスパー様の手から逃げるとはな。伊達に賢者と呼ばれていないという事か……!」「どうする? 奴等が参戦しては我らの負けは必至」 ビリーとクリートはトゥースたち三人の脅威を理解していた。 その実力は、今回の戦争で最も警戒していたアズリー、ポチ、リーリアと同等レベルだからだ。「おいトゥース! 手ぇ貸してくれねぇのかよ!?」「あぁ? 何でだよ?」 だが、二人のその心配は杞憂と知る。 トゥースはブルから降りると、その場で背後の木を利用して腰掛けた。