などと答える必要も無かったか。彼女はとっくに僕の楽しめることを知っており、その証拠に薄紫色の瞳を細めて愛らしく笑いかけてくる。これがまた、半年を一緒に過ごしていても見とれてしまうほどの破壊力だ。 綿毛のように明るい髪は、秋の風に揺れて輝くような光沢を生む。眠るときなどに触れてみると分かるが、しっとりとした質感があって肌触りはとても良い。 まるで妖精のようだと思うのも、エルフなのだからさほど間違いではない。透き通るように白い肌、紫水晶じみた瞳、そして唇から漏れる言葉はうっとりするくらい耳に心地良い。 それでいていつでも好意を注がれているのだから、僕のようなサラリーマンなど呆気なくやられてしまう。今ではもう、僕の視線はいつでも少女を追ってしまうほどだ。 週末最後の日曜日、マリーが選んだのは襟付きシャツの上に明るいニット、それにひらひらとしたチョコレート色のスカートだった。自然色が多いのは彼女の好みか、はたまたエルフという由縁のせいかは分からない。たぶんその両方かな、と思う。 河川敷の小道には川のせせらぎが聞こえてくる。 そのぶん空気の冷たさをエルフは覚え、抱きついてきたのかもしれない。「今年は少し寒いのかな。夏が終わったと思ったら、ぐんぐん気温が落ちてゆく」「ふうん、日本で過ごすのは初めての年だから分からないわ。来年にはきっと同じ会話ができるでしょうけれど」 あ、その言葉は素直に嬉しい。来年も隣にいてくれるのだと、少女ははっきりと伝えてくれた。本当は「ずっと一緒にいて欲しい」と願うけれど、気のせいかそう言わずともマリーは願いを叶えてくれそうな気がする。 それにしても温かい。ぴったりと触れ合っているので、先ほどまでの肌寒さはすっかりと消え、ついでに物悲しい想いさえ消えてしまったように思う。「今年の夏は特に騒がしかったでしょう? そのぶん寂しく感じるのかもしれないわ」「どうしても夏は賑やかになるよね。ただプールも海も、僕にとってはだいぶ久しぶりだったかな。というより、マリーが来てからはずっと騒々しい気もする」 どういう意味かしら?とニット帽の下にある瞳から見上げられた。 その瞳も楽しげで、たぶん彼女も同じ想いをしているように思う。エルフという長い人生においてもまた、この半年は今までに無いほど賑やかであり、だからこそ日々の変化を楽しめている。 その変化には、彼女との正式な交際が始まったことも含む。 どこか臆病なところがある僕は、勇気を振り絞って告白をしたものだ。結果、極めて幸いなことに彼女はイエスと答えてくれ、以前よりも親密なお付き合いを許された。 そのように思い返していると、少女の瞳は僕から秋の空へと移る。夕暮れ時の空は色彩が褪せ、どこか寒々しく見えた。「それで、日本の秋は物悲しいものなのかしら? 向こうの魔術師ギルドでは、今ごろ薪の準備で大忙しよ。それが終わったら今度は食料も貯めないといけないから、情緒を感じる暇もないの」「どうなのかな。こっちでも秋といえばスポーツ、食欲、読書、それに睡眠――は、いつも困らないか――に向いていると言われている。大人になった今は忙しくないし、過ごしやすい時期だと思うかな」 大人になった今は、という前置きに少女は小首を傾げてきた。なので僕は図書館の貸し出し袋を持ち直し、それから川べりをゆっくり歩きながらマリーへと説明をした。