「僭越ながら、力なくしてこの世界を生き延びる事は不可能です。陛下は武人としても高名であられる。間違いなくその才は受け継がれておりましょう。鍛えないのは勿体ない。鍛えておかないといざという時に後悔しますよ。僕だっていつも後悔してる」 凄い言い分だった。たとえ忠臣でも、大国ゼブルディアの皇帝にそのような大言を吐いたりはしないだろう。人間社会に疎いクリュスだって今の言い分が如何に常識はずれなのかはわかる。 進言してまで皇女殿下を鍛える以上、やってみて駄目でしたは通用しない。そもそも、今回の話はただの護衛だったはずなのだ。 余りに大胆な提案を聞き、皇帝陛下が立ち上がる。右眉だけ下げ、歪んだ笑みを浮かべる。「ふむ……そのような進言を受けたのは初めてだ。だが、一理ある。まだ早いとは思っていたが――王室の一員として強くあらねばならぬ。《千変万化》、お前ならそれができる、と?」 鋭い眼光から形容しがたい重圧を感じた。これが大国の皇帝たるものの威光なのか、とてもクリュスよりマナ・マテリアル吸収量が低いとは思えない。 ヨワニンゲンはそれに対して真っ向から視線をあわせ、きっぱりと言った。「僕には無理です。ですが僕が所属するクランのメンバーは沢山いるし、あのアーク・ロダンもいる。おまかせください、彼ならば必ずや皇女殿下を英雄にできましょう!」