夢の世界での夕飯というのは、日本における朝食となる。 たとえ異なる世界を移動しても、お腹が一杯というのは変わらないのだ。 この第二階層広間では、日に日に食材が豊かになりつつある。それも魔導竜と元階層主に守護されているのだから当然かもしれない。 もちろん僕とマリーの持ち込んでいる種なども影響しているけれど。 魔導竜の気まぐれか、屋敷には新たに洋風の間が造られた。 幾つかのテーブルを置き、やがては客を招くらしい。大所帯を招待するなら、確かに洋風の方が都合が良いだろう。その試運転として僕は呼ばれたのかもしれない。 じいいと隣から見つめてくるのはシャーリーで、今は髪を頭の左右へ結わいている。やや離れたテーブルには皆が集まっており、先ほど置いたお酒とツマミへ手を伸ばしつつ会話を楽しんでいるようだ。 一層大きな笑い声が起こり、振り返ると先ほど参加したばかりのダークエルフが場を盛り上げていた。薄着だというのに椅子へ胡坐をかき、太ももをまぶしいほど見せつけている。 相手をしているエルフの少女は、もうすぐ日本で目覚めることを考えてお酒を控えているようだ。もちろんウリドラは思い切り楽しんでいるけれど。 しかし、それぞれがウリドラの子を抱えているのは、何やら不思議な光景だ。 賑やかな様子を眺めてから、すぐ隣の青空色の瞳へ笑いかけた。「シャーリーは料理に興味があったのかな。どうだろう、僕の秘伝のレシピを特別に教えてあげたいけれど、厳しい修行についてこれるかな?」 あれ、厳しい修行と言いつつも、だいぶ眠そうな声になってしまったか。しかし彼女は瞳を大きくさせ、それから「もちろんです」と言うように顔を引き締めてきた。 やる気十分なようなので、まずは鶏肉を調理する所から初めて貰おうか。 今は人目があるのでシャーリーは実体化しており、いそいそと近くにあったエプロンを身に着けてゆく。細い腰だなと思いながら後ろから紐を結んでやり、さばいたばかりの鶏肉の説明を始める。「柔らかい鶏肉だから、今日はから揚げをしようと思うんだ。叩くのと筋切りくらいだから、きっとすぐ覚えると思うよ」 手渡した包丁には「竜」という印が刻まれている通り、ウリドラ製のものだ。そこいらの刃物よりスパスパ切れるし、刃こぼれしてもすぐ直るので重宝している。 それを手渡すと、青空色の瞳はどこか鋭さを増した。冬空を思わせる色へ変わり、足元には冷気が流れてゆく。