プロジェクターの電源を入れて、DVDの再生ボタンを押すと、ガソリンランタンの灯りを小さくする。 プロジェクターとスクリーンを距離を調整すると物語が始まった。「あれ?」 音が出ない! 慌てて、シャングリ・ラから2000円のアンプを買う。スピーカーは迷ったが、F○STEXにしてみた。 思わずJ○Lを買いそうになったが、ぐっと堪える。スピーカーケーブルも買って被覆を剥いたり大忙し。 だが彼女はキョトンとして俺の行動を見ている。 やっと繋ぎ終わった。それじゃ気を取り直して最初から――。 物語が始まると彼女は驚きの声を上げる。「あの! あの窓の中に人がいるんですが」「違う世界の出来事を魔法を使って覗いているんですよ」「魔法……」 彼女は言葉少なめに、映像に食い入るように観ている。文化や風習が違うので俺の解説付きだ。 映画は、ある修道院へやって来た修道士が連続怪死事件を追うストーリーだ。 スピーカーから出ている音声も彼女は聞き取れているようだ。――ということは、この世界は本当に日本語互換の言語なんだな。 脳内で変換されているだけかと思ったら、そうでもないらしい。 まぁ、ローマ字モドキの文字を読むのを見れば、そうでないのは自明の理なのだが。 映画が終わったが彼女は興奮冷めやらぬ感じで色々と質問してくるので、それに答えてやる。 俺も歴史等には、あまり詳しくはないからなぁ。あまり突っ込まれると困るんだが。「ケンイチさんと話していると、まるで賢者様と話しているみたいです」「あはは、こんな賢者がいたら困るな」「そんな事はありません……」 外はすでに真っ暗、この世界では寝る時間だ。「さて、夜も更けたし、そろそろ寝ようか」「あ、あの……」「ああ、寝間着を出してあげますので、ちょっとまって下さい」「あ、あの……出来れば……以前見せていただいた、透けた物……」 座ったままのプリムラさんが、モジモジしながらとんでもない事を言い出す。「え? あんな物を買っては、お父様に叱られますよ」「良いんです。私も、もう子供ではありませんし」「あれを買って勝負を賭けたい意中の方がいらっしゃるんですか?」「今です……けど」「え?」「……」「ちょっと、プリムラさん。そこへお座りなさい」「座ってますけど」 オヤジの説教タイムが始まる。「若い子はもっと自分を大切にしなくてはいけませんよ。こんなオッサンなんか興味を持っちゃダメ! もっと輝かしい未来を約束されている、うら若い男性がいるでしょう」「そんな事はありません。ケンイチさんは素晴らしい方です」「ああ、嘆かわしい。プリムラさん程の女性なら貴族からも引く手数多でしょう?」「確かにそういう話も頂いておりますけど、商人の娘が正室になれるはずもありませんし。妾としか見られていません。そんなものが女の幸せと仰るのですか?」 貴族から見れば商人の娘は金づる。商人から見れば貴族は利権への窓口。そこに女の幸せは無い。 逆に借金で首が回らなくなった貴族の娘が商人に嫁ぐなんて事もあるらしい。「それなら私の露店に、よく来て下さる騎士様はどうでしょう?」 すこし、プリムラさんは考えているが、思い当たる人物がいたのだろう。