「驚いたけど、それよりもウリドラが元気になってくれたのは嬉しいな。お嬢様、鹿のソテーはいかがですか。赤のワインとよく合いますよ」「ふ、ふ、ではいただこう。それと北瀬よ、先ほど気になることを言うていたな」 うん? なにをだろう。椅子を示されたので、残りの配膳はイブへ任せることにして腰かける。すると機嫌の良さそうな顔を彼女は近づけた。「おぬしらは、ついに番となる決意をしたようじゃな。阿呆どもの騒ぎを楽しむ前に、まずはおめでとうの言葉を伝えよう」 にこーっと猫のように瞳を細め、嬉しそうな顔をされた。それから部屋の隅に向け、おいでおいでと手招きをすると、お盆を両手に抱えていた少女が少しだけ頬を赤くさせながら歩み寄ってくる。 きっと空気を察したのだろう。僕の顔をちらりと見て、それからとても嫌そうな顔をした。「私たちがおちょくられる前に、ウリドラを酔っ払いにしてやりましょう」「くふふ、可愛いエルフ族め!」 唐突に抱きしめられて、きゃあと少女は悲鳴をあげる。どこから見ても酔っ払いの行動であり、素面の僕らには耐えることしかできないね。 などと思っていたら、反対側の手を伸ばされて一息に抱きしめられた。「おぬしもじゃぞ、可愛い人間族め。ふ、ふ、草食系と思わせておいて、いざとなったら早いのう。んむ、良い雄じゃ」 祝ってくれるのは嬉しいが、ぽんぽんと背を叩かれると気恥ずかしさがこの上ない。がばっと僕らは同時に身を離しかけたけど、その後ろ首に魔導竜の手が巻きついて、先ほどよりも深い抱擁を味わわされた。 柔らかな頬と触れ合い、うなじから首筋まで覗く着物から彼女の甘い香りがする。どこか品があり、また母性を感じさせるものだ。 そして、彼女の静かな声が鼓膜を震わせた。「式にはわしも招待するのじゃぞ」「も、もちろんよ。あなたには特等席を用意するから、美味しいものをたくさん食べながら楽しく過ごすと良いわ」 んふふー、と竜はまた上機嫌そうに笑う。僕らの髪をくしゃくしゃとさせ、それから「楽しみじゃ」とまた静かな声で呟く。「生きる者は番になることが定められておる。互いに認め合ったならば、そろそろ現の世に目覚める時刻じゃ。後のことはわしがしておくから、ふたりとも温かな寝床に戻るが良い」 こくっと僕らは小さく頷く。耳に届く声はどれも優しくて、これまでずっと僕らのことを見守っていてくれたと分かる響きだった。 臆病な僕らの背を押して、もっと幸せになれるよう導いてくれていた。やきもきしながら、たまに悪態をつきながら、やっと一歩進みだした僕らを見て魔導竜は諸手で拍手をしてくれたのだろう。 身を離したマリーは瞳に涙をにじませており、それを見た竜は「まだ泣くには早いじゃろう」と少女の鼻を指で押す。 そしてバイバイと互いに手を振りあって、僕らは賑やかで楽しそうな洋風レストランを後にした。