これまでアカネコの前で見せてきた俺の試合は三回。うち二回が後手であり、アザミとの試合のみ先手をとった。そして、最も長引いたのがその試合だ。 俺が先手を苦手としていると考えたのか? 最初はそう思ったが……彼女の表情を見るに、どうやら違ったようだ。 いやあ、面白い。 面白いぞ、その考え。「…………」 ――アカネコは、こう言っているのだ。 やってこい、と。あの技を出せ、と――。「いいねぇ」 そんな風に誘われて、やらないわけがないよなァ! 俺は間合いを詰め、《飛車抜刀術》を準備する。 アカネコはそれに対応するように一歩後退し、鯉口を切った。 間合いを取らせはしない。俺は準備を終えて尚、抜刀を溜めながらアカネコとの距離を詰め続ける。 アカネコの後退が止まった。ここだ。 瞬間、姿勢を低くして、スキルキャンセル。同時にくるりと横方向に回転し、《銀将抜刀術》を準備完了と同時に抜刀する。「――ッ!!」 アカネコが短く呼吸を止めた。 彼女が繰り出したスキルは――同じく、《銀将抜刀術》。 キィンと甲高い音が鳴り響く。俺の抜刀は、アカネコの抜刀によって弾かれた。 見切られた? 否。初見であれを見切るのは不可能に近い。 軌道を予測し、最も素早く対応できるスキルをぶつけたのだろう。 良い判断だ。後から出す分、彼女の方が《銀将抜刀術》を多く溜められる。溜めた分だけ、威力が増すスキルだ。おかげで、俺の手はじんと痺れた。「はッ!!」 アカネコの二の太刀が迫る。同様に《銀将抜刀術》だ。 溜めずの銀将が最速。カンベエは小手先の技と批判していたそれが、兜跋流ではメインなのかな? だとしたらカンベエは立つ瀬がないなぁ。 だが、その有用性たるや【抜刀術】でも最たるもの。兜跋流は【抜刀術】というスキルをなかなかよくわかっているな。 いやあ、しっかし、痺れる手で応じざるを得ないのかこれ。ちょっと嫌だな。 ……アレやっとくか。「よっ」「!?」 俺は、アカネコの袈裟斬りに対して、正面から突っ込んだ。 彼女の驚く顔を見ながら、更に急接近する。 刀が俺の脳天に直撃する寸前で体を逸らし、そのまま片足で立って肩でアカネコの振り下ろした刀そのものをぐいっと押してやった。「いっ……!?」 思い切り振り下ろしていたもんだから、アカネコは横に逸れた刀に引っ張られるようにして体勢を崩す。 こりゃ【合気術】でやると効果抜群なんだが、今は【抜刀術】縛り中だ。ただ、スキルを使わずとも効果は十分である。「さて」 納刀して、仕切り直し。 俺は地面に手をついて体勢を立て直すアカネコに向き直り、ニッと笑った。「…………っ」 アカネコはきょとんとした後、キッと表情を引き締め、再び雑念を取り払う。 その一連の表情変化で、「惜しかったのに」という悔しさと「馬鹿にしやがって」という怒りと「次こそは」という期待が伝わってきた。 駄目だなぁ、勝負の場で心の内を見せちゃあ。 才能は抜群にあるが、まだまだ粗削りだ。加えて精神面が成熟しきっていない。 つまるところ……実に育て甲斐のある抜刀術師と言える。「アカネコ。抜刀術ってのは、刀だけじゃないんだ」 折角だから、今、一つ教えてしまおう。 俺は初手と同様に、間合いを詰めながら《飛車抜刀術》を準備する。「!」 アカネコは「またか」という顔で後退、同じ対応を見せた。 俺の手を痺れさせることができたあの対応が、最善だと思い込んでいるようだ。