「でも、ケンイチさん。角ウサギには気をつけて下さいね。捕まえるのが簡単そうに見えて怪我をする方が多いですから」 近づくと角で頭突をしてくるらしい。死んだふりをすることもあるので、可愛く見えるが意外と危険な動物のようだ。「ケンイチさん。この白いスープはどうやって作るんですか?」「ええと――これには貝が入ってますが、具はなんでも良く牛乳と小麦粉で煮た物です」 生クリームとか使ってたりしたような気もするが、ここには生クリームは無いしな。 まぁ、シャングリ・ラには料理の本もあるし、彼女が正確に知りたいというなら、本を買って調べた方が良いかもな。 でも、この世界に無い食材もあるし、そこら辺はアレンジが必要だろう。「貴族様の料理で、そんな感じのスープの話を聞いた事があるので、これかもしれませんね」「さすが貴族は良い物食ってるんだなぁ」「ケンイチさんの料理もそれに劣らないと思いますよ」 夕飯も食い終わったが、プリムラさんは、また泊まるつもりなのだが――いいのかなぁ……。 父親ぐらい年齢が離れているので、安心しているのかもしれないが。 彼女と商売談義に花が咲くが、どうも会話の間が持たない。 元世界の話なら、いくらも出来るのだが、想像もできない異世界の話をしても仕方ないだろう。 だが、お伽話として聞いて貰えるだろうか? う~ん、そうだ。お伽話で良いなら映画とかどうかな? オーバーテクノロジーだが、プリムラさんなら大丈夫だろう。 俺は、DVDのソフトを検索し始めた。俺が映画を見るだけなら、シャングリ・ラで観ればOKなのだが、それだと彼女が観る事ができない。 だが、SF映画や現代映画を彼女に観せてもしょうが無い。この世界に時代背景が近そうで、そんなに違和感が無い映画と言えば……。 クレオパトラ――昔の古いやつな。 或いは――。 も○ひとりのシェイクスピア。 う~ん、【薔薇○名前】はどうだ。これなら、この世界に近い世界観のような気がする。 もちろん、吹き替え版だ。日本語で字幕が出ても彼女には読めないからな。「いったい何を……」 困惑するプリムラさんを手で制して準備を始める。 先ずはDVDプレイヤーだ――再生専用なら3000円ぐらいで売っている。モニタは高いので、プロジェクターを使う。安い物なら1万円で買える。 そしてスクリーン、3000円だ。 薔薇○名前のDVDは中古が500円で売っていた――安い。今はブルーレイなのか? 床にクッションを敷いて【購入】ボタンを押すと、機材がドサドサと落ちてくるが設置は簡単だ。 プロジェクターはテーブルの上に載せて、スクリーンは壁から吊るす。電源にモバイルバッテリーをアイテムBOXから出した。 これで準備OK。 プロジェクターの電源を入れて、DVDの再生ボタンを押すと、ガソリンランタンの灯りを小さくする。 プロジェクターとスクリーンを距離を調整すると物語が始まった。「あれ?」 音が出ない! 慌てて、シャングリ・ラから2000円のアンプを買う。スピーカーは迷ったが、F○STEXにしてみた。 思わずJ○Lを買いそうになったが、ぐっと堪こらえる。スピーカーケーブルも買って被覆を剥いたり大忙し。 だが彼女はキョトンとして俺の行動を見ている。 やっと繋ぎ終わった。それじゃ気を取り直して最初から――。 物語が始まると彼女は驚きの声を上げる。「あの! あの窓の中に人がいるんですが」「違う世界の出来事を魔法を使って覗いているんですよ」「魔法……」 彼女は言葉少なめに、映像に食い入るように観ている。文化や風習が違うので俺の解説付きだ。 映画は、ある修道院へやって来た修道士が連続怪死事件を追うストーリーだ。 スピーカーから出ている音声も彼女は聞き取れているようだ。――ということは、この世界は本当に日本語互換の言語なんだな。 脳内で変換されているだけかと思ったら、そうでもないらしい。 まぁ、ローマ字モドキの文字を読むのを見れば、そうでないのは自明の理なのだが。 映画が終わったが彼女は興奮冷めやらぬ感じで色々と質問してくるので、それに答えてやる。 俺も歴史等には、あまり詳しくはないからなぁ。あまり突っ込まれると困るんだが。「ケンイチさんと話していると、まるで賢者様と話しているみたいです」「あはは、こんな賢者がいたら困るな」「そんな事はありません……」 外はすでに真っ暗、この世界では寝る時間だ。「さて、夜も更ふけたし、そろそろ寝ようか」「あ、あの……」「ああ、寝間着を出してあげますので、ちょっとまって下さい」「あ、あの……出来れば……以前見せていただいた、透けた物……」 座ったままのプリムラさんが、モジモジしながらとんでもない事を言い出す。