お肉を切り分けているころ、ようやくマリーはお風呂場から戻ってきた。ほかほかと湯気を出し、布団をかぶったままのウリドラへ不思議そうに小首を傾げる。 それからチキンの香りを胸いっぱいに吸い込み、その理由に思い至ったようだ。「んんーーっ! 美味しそうっ! ね、ね、もう食べれる時間なのかしら!? ウリドラ、いつまでも布団に入っていないでこちらにいらっしゃい」「その前に、ツリーに明かりを点けなくちゃいけないよ。ようやくクリスマスイブが始まったんだからね」 いつの間にやら外はとっぷりと暮れており、イブというのは始まっていたらしい。 そうだったわと少女は思い出し、ぱたぱたスリッパを鳴らしてツリーに駆け寄る。黒猫も布団を飛び出すと、そのままエルフの肩に飛び乗った。「ええと、スイッチは……これね。じゃあ付けるわよ」「にううーー」 その途端、飾りをつけたツリーから光が漏れる。明滅を繰り返し、赤や金、白などのオーナメントは輝きを増し、しばし二人は口を開けたまま動けなかった。 なるほど、と納得するところもある。 星やベルなど反射をする作りをしていたのは、これが理由だったのか。明滅はクリスマスツリーを染め上げ、あちこちから輝きが溢れてくる。 これならきっと子供でなくとも胸をときめかせるだろう。「わあ、あーー…………」「うん、とても綺麗に飾ることが出来たね。さあ二人とも、お皿を運んでくれるかな。手伝ってくれたら良いワインを飲ませてあげるよ」 同時にクリスマスソングを部屋に流すと、より彼女たちは高揚する。情緒たっぷりの音楽に溢れ、ローストチキンやポテトの焼けた良い香り、ロウソクの点いたテーブルに瞳を輝かす。 お皿を決して落とさないよう少女は真剣な顔をし、サラダやワイン、食器などがテーブルを飾ってゆく。 おっとそうだった、もうひとつ飾るべき物があった。 冷蔵庫から取り出したのは、大きなホールケーキだ。 クリームとイチゴという白と赤、そしててっぺんには丸太の小屋がある。もちろんサンタクロースは欠かせない。 それを運んでゆくと、ナイフとフォークを持ったまま、エルフの薄紫色の瞳は輝く。ゆっくりテーブルに乗せると、ぱちぱちという大きな拍手が待っていた。「じゃあ美味しくいただこうか。メリークリスマス、マリー、それにウリドラ」「わあ、もうずっと待ってました! メリークリスマス!」「にうにうーーっ!!」 どうやら無事に、クリスマスは万歳の格好で迎えられたらしい。 楽しいものだと伝えたかった僕としては、ほっと安堵をしつつも鶏肉をそれぞれの皿に乗せていった。 照明を下げた部屋で、ようやくという風に二人はローストチキンにかぶりつく。すると待っているのは鳥ならではの香ばしさ、それも香草をたっぷりと使ったものだ。