払拭出来ない不安「海斗ってさ――優しいよね」 アリスさん達と別れた後家に帰ってる最中さいちゅう、雲母が急にそんな事を言い出した。 雲母は今も尚手を繋いでるのが嬉しいのか、幸せそうな笑顔で俺を見上げてきている。 俺はそんな雲母に戸惑いつつも、手を離すのをためらわれたため、なるべく感情を表に出さない様にしていた。「俺が優しい?」 雲母の言葉に疑問を抱いた俺は、眉を顰ひそめて雲母に尋ねた。「うん。だってアリスが取引を持ち出さなくても、本当はアリアに何もする気がなかったんでしょ?」 俺は雲母の言葉に頬を指でかく。 俺がアリアのインサイダー取引の証拠を手に入れた事や、アリアを追いつめる事は、雲母に教えていなかった。 しかしあの場の雰囲気からか、普段の俺を見ているからかはわからないが、俺が決定的な事をしないとわかっていたみたいだ。 だけど、俺がアリアの人生を終わらせる気がなかった理由は、優しさではない。 それに、アリアにあれだけの事をされておきながら、アリアに何一つ罰を与えなかった雲母の方が優しいだろう。「別に見逃そうと思ったのは、優しさじゃないぞ?」「え? じゃあ、なんで?」 俺がアリアの人生を終わらせる気が無かった理由は複数あるが、もっとも大きい理由はアリアがアリスさんの妹だからだ。 アリスさんは俺にとって恩人であり、大切な人でもあった。 だからアリアがどれだけ屑であろうと、アリスさんの妹である限り、決定的な所まで追い詰める気はなかった。 アリスさん自身、アリアに改心をしてほしいとは思っていても、居なくなってほしいとは思っていなかった。 なのに俺が、アリアの人生を終わらせるなんて出来るはずがない。 それはアリスさんの気持ちを、裏切る事にもなるのだから。 しかし、この事を雲母にそのまま正直に話す訳にはいかないだろう。 きっとアリスさんの事を話してしまえば、俺達の過去についても話さないといけなくなるだろうから。 だから、別の理由を雲母には言う事にしよう。「そもそも、今回俺が取引した相手ってのは、アリスさんなんだよ」「え!?」 俺がアリスさんとの取引の事を言うと、雲母が驚いた声を上げた。 それもそうだろう。 なんたってこれじゃあ、アリスさんは妹を裏切ったという事になるのだから。 ……まぁ事情はどうあれ、裏切ってる事には変わりないが……。「アリスさんはお前の事を助けたかったのと、この勝負でアリアに改心して欲しかったんだよ。だから俺と取引をして、情報をくれた。その情報が無ければ俺達は勝てなかったし、アリアのインサイダー取引の証拠も手に入れられなかった。そしてもちろん取引という事から、アリスさんからも条件が出されていた。それが雲母に予め言っていた、報酬について融通を利かせて欲しいという事だ。だけど、言葉にはされなかったが、そこにはアリアの最低限の保証も含まれていた」「それは何?」 雲母はアリスさんとの取引の中に有った、最低限の保証が何なのかわからず、首を傾けて俺を見上げてきた。