「近頃の若ぇもんはよー、なってねえなー。なんか軽いんだよなー。そもそも考えが甘ぇんだよ。分かるかジャストよー」「違ぇねェっすわ、ソブラ兄さん」 夜。食堂の片隅で酒を酌み交わす二人がいた。 ボサボサ髪で無精ひげをはやした眼鏡の男「ソブラ」と、茶髪をバシっとオールバックにキメた若い男「ジャスト」である。「でも兄さんのアレは流石に効いたみたいですねェ。あいつ寝込んでましたぜ」「はン。ありゃいじけてるだけだ」「まあまあ兄さん、飲んでくだせェ」 ジャストがソブラの機嫌を取るように酒を注ぐ。「おお、悪いな。ん? いや、悪くねえ。元はといえばお前がしっかり教育しねえからだろうが」「いやほんと、すんませんねェ」 ジャストはへらへら笑いながらぺこりと頭を下げた。ソブラはため息ひとつ、酒を呷ってから口を開く。「伝記ねえ。あんなバカに書けるようなもんとは思えねえが」「これから学んでいくんですよ、きっと。俺たちだってそうだったじゃァないですか」「まあ、なぁ」 二人は目を閉じて思い出す。自分がこのファーステスト家へ来たばかりの頃のことだ。「……必死だったな。元々料理は得意だったが別にプロじゃねえからよ。猛勉強猛特訓だ。あれほど本を読み漁ることは後にも先にもねえだろうな」「俺も必死でしたわ。俺は文字が読めねェんで手探りでやりましたよ」「そいつはキッツイなあ。いやでも俺もキツかった。いきなり毎日3食14人分作れってんだからよ。嫌でも料理が上手くなるってもんだ」「ははは、そりゃ上達しますねェ」 これがキツかったあれがキツかったと笑い合う。 本当にキツかったなら、笑い合えるわけもない話。何故それほどにキツかったのか。それほどに必死だったのか。二人は言葉にせずとも分かり合っていた。ただひたすらセカンドの役に立ちたかったのだ。「おっと、もうこんな時間か」 ソブラが時計を見てそんな声をあげる。「普段ならとっくにキュベロさんが来て追い払われてますもんねェ」 ジャストはけらけらと笑いながら言う。執事のキュベロは夜の見回り中に酒盛りする二人を見つけたら、確実に注意するのだ。「ああ、そうか。キュベロのやつ迎えにいってんのか」「はい。いよいよ、明日です」 グラスの酒をなくしながら、二人は明日へと思いを馳せる。思い浮かべるのはある一人の男の顔。 4ヶ月ぶりに見る、彼らの主人の顔であった。